第33話 意外な移動手段
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西暦二〇X一年一一月一八日朝。
ニットシャツとマウンテンパーカーを着た、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太。
サメの着ぐるみを被った、銀髪碧眼の少女、建速紗雨。
上半身裸に革ジャンパーを羽織り、ドカンボトムを穿いた金髪少年、五馬乂。
栗色の髪を赤いリボンで結び、薄い緑と藍色のフリルワンピースを着た女性、矢上遥花。
四人はカムロの屋敷を出発し、クマ国を走る機関車の客席に乗っていた。
シュポポシュポポと黒白の煙が伸びて、ガタンゴトンと揺れる山道を走り、〝空間の裂け目〟をくぐっては、荒涼とした砂漠や凍てついた氷原を越えて、再び緑に覆われた山道へと戻ってくる。
「いやっほう、砂漠だよ砂漠。氷原まで見られるなんてツイてるなあ。って、外の景色がおかしくない? そもそも機関車が動くの?」
「サメエ。クマ国は八岐大蛇が残した呪いの影響で、精密機械が動かないサメ。でもジイチャンだけは神通力で〝でぃすぷれい〟や〝ぷれいやー〟を動かせるから、週に一度、広場で上演されるサメ映画が大人気だったサメ♪」
紗雨は銀と白のサメ姿に変わり、桃太の膝上で腹を見せながら、目をキラキラさせていた。クマの里は平穏だが、それ故に娯楽が少なかったのだろう。
「……カムロのジジイも苦労したみたいだぜ。里は転移門で繋がっているけれど、人力移動じゃたいした量を運べない。だから当然、商業も工業も育たないってわけで、必死で機関車を作って線路を引いたらしい」
「鉄やプラスチックの代わりにモンスターの骨や甲殻を組み合わせ、燃料には木炭を使っているようね。初歩的な蒸気機関車だけど、クマ国では革命的な効果を発揮したみたいよ」
「カムロさん、努力されたんですね」
都会では道も線路も有り触れているだろうが、田舎だとそうはいかない。買い物や通院にすら苦労するのだ。
桃太は、ひょっとしたら日本政府や八大勇者パーティも、移動手段のノウハウを欲しているのかも知れないと感じた。
「機関車が動く理由はわかったけど、地上を目指すなら異界迷宮を昇るんじゃないの?」
「桃太おにーさん。里と里は基本〝クマ国の地上〟で繋がっているサメ。だから、〝地下にある迷宮〟なんて、猟師さんでもないと行かないサメ」
桃太は白いサメのお腹を優しく撫でながら、膝の上でごろごろと喉を鳴らす紗雨の言葉に首を傾げた。
「え!? 〝魍魎の谷〟って、異界迷宮の最下層にあるんじゃないの? あそこから他の里に繋がっているんだとばかり思っていた」
「相棒。地球だって、異界迷宮の入り口は世界各地にあるだろ? クマ国から見れば、あの谷は第一階層の〝水苔の洞窟〟にあたるんだよ。迷宮の最奥なんて、きっと獅子央焔や呉陸尊、呉陸項みたいな伝説の冒険者しか入ったことがないんじゃねーの?」
桃太はショックだった。命からがら生き延びたというのに、まだ地下一階に過ぎなかったのだ。
「……俺と先生は、襲われたんだけど、死にかけたんだけど」
「桃太おにーさん。同じ階層なら、呪いの影響もあって、クマ国に近い方がやっぱり危険サメ。紗雨達も近づいちゃダメって何度も止められたサメ。でもガイは不良だから聞いてくれないサメ」
「シャシャシャ。あそこは、地球からいろんな玩具が流れつくんだぜ。相棒、今度は一緒にエロ本を拾いに行こうなっ」
「ガイのおたんこなす。桃太おにーさんを悪の道に誘うなサメ!」
親指を立てた乂に紗雨が頭突きして、二人はギャンギャンと吠えながら、踊るようにぐるぐると回転し始めた。
「桃太君、今わたし達が向かっているのはイナバの里よ。最近発見された地球に近い転移門があるから、まずは其処を目指しましょう」
あとがき
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