第343話 勇者パーティの表裏
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「七罪業夢、それに〝K・A・N〟よ、時代は変わっているのさ。……だいたい貴様達は獅子央焔がいた頃から半世紀、日本でろくに覇権を握れなかっただろう。所詮は口ばかりが達者な小物ばかりよ、アハハ。ざーこざーこ!」
昆布のように艶のない黒髪の痩せた少女、伊吹賈南は、冒険者パーティ〝W・A〟が優位とみるや、テロリスト団体〝K・A・N〟を手招きしながら挑発。
「誰がザコだと、伊吹賈南。この魔女め!」
「蒸気エンジン全開。湿地なんて、力づくで突破してやる!」
ノコギリのような乱杭歯が目立つ中年男、索井靖貧と、カエルのように恰幅のよい丸顔の男、郅屋富輔は、茹でたヤカンのように顔を真っ赤に染めて、背負った蒸気機関をフル回転させて脚部ユニットを動かし、足場の悪い泥地から飛び出そうとした。
「おや、なにかを踏んだか?」
「前が詰まるでしょうが、早く行きなさいよ、あれ?」
「「ぐわあああっ」」
血のように赤い色で塗装された蒸気鎧を着る上級職、〝夜狩鬼士〟隊は、怒りのあまり索敵や安全確保もせずに踏み出した結果、賈南が仕掛けた異界迷宮産の果物から作られた地雷を踏み、派手な爆風をあげて転倒してしまう。
「くそ、〝W・A〟の指揮官は、三縞家が率いた勇者パーティ〝C・H・O〟を倒したレジスタンスのリーダー、矢上遥花だ。部下にも、勇者を騙る出雲桃太に、クマ国を支配する蛮族首魁の娘、建速紗雨。忌々しい魔女そっくりの伊吹賈南と、粒揃いの戦力が揃っているようだ」
「ですが、所詮は一般冒険者パーティ。我らは七罪家が誇る勇者パーティ〝K・A・N〟の精鋭です。あんなルーキー達なんて敵ではない!」
索井も郅屋も泥にまみれながらも、勇者パーティの一員であると自らを鼓舞することで起き上がり、なんとかプライドを維持しようとしたものの――。
「コケーッ。貴方達はもう勇者パーティではありません。地球の日本国からも、そして異世界クマ国からも指名手配された犯罪者ですわ。この六辻詠が勇者として、貴方達を逮捕して差し上げましょう」
「な、なんだとおっ。六辻詠? 影武者じゃないのか!?」
「まさか、本物ですか!?」
赤い髪を二つのお団子状にまとめた、小柄で恵まれたスタイルの少女。
今となっては残り少ない現役の〝鬼勇者〟、六辻詠がまさかの名乗りをあげたことで、目に見えて顔色が揺らいだ。
「ギャハハっ。だ、騙されるな。六辻家と七罪家は義挙の為に同盟している。こやつは、詠様の名を騙る偽物に違いない」
「フフフ。そうだ、詠様は今、異界迷宮カクリヨの第八階層〝残火の洞窟〟に建てられた我らが同盟軍の要衝、〝三連蛇城〟で、勇者パーティ〝SAINTSの陣頭に立っているはず!」
「ここは、第九階層〝木の子の谷〟だぞ。詠様の名を騙る偽物め、成敗してやる」
索井や郅屋ら〝K・A・N〟の団員達は、詠を偽物として扱うことで精神の安定を保とうとするが……。
「コケーッ。信じられないというなら、身のあかしを立てるまでですわっ。〝鬼神具・空王鬼ジズの羽根〟よ、力を貸して。
舞台登場 役名宣言――〝鬼勇者〟!」
あとがき
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