第339話 偽りを操る者
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「桃太さん、どうして?」
「一度戦い終わったらノーサイドってね!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、黒コートを着た鴉天狗の女性指揮官、葉桜千隼が率いる防諜部隊ヤタガラスの小隊を守るべく、両手から伸ばした二本の衝撃刃で、全長一〇メートルに及ぶ巨大な影の槌を受け止めた。
「ニャ、ニャニャー(乂。〝怠惰の槌〟は、おそらく広範囲技。それだけに大きいけれど、先ほどからの〝影の使役術〟を分析するに、炎や光に弱いわ。支援するから破壊して!)」
「サンキュー、リン。お前の力があるなら壊せるぜ。燃えろ闘魂、ドロップキーック!」
「なんとおっ。その三毛猫は、まさか三縞かっ……」
桃太の相棒である金髪ストレートの少年、五馬乂が、三毛猫に化けた元勇者パーティ〝C・H・Oの代表、三縞凛音の助けを得て、炎風をまとった両足飛び蹴りを繰り出し、二・三階建て物件ほどもある影の巨大槌を破壊する。
「乂、中に何か入ってるぞっ」
「マキビシでも仕込んだか? って、なんだこれえ」
乂が蹴り込んだ炎と風によって影が砕けた途端、あたかも紙吹雪のようにハラハラと何かが舞い落ちた。
桃太は咄嗟に乂の襟首を掴んで横っ飛びに避けたが、二人の眼前に落ちてきたのは――。
他ならない桃太自身と、クマ国代表の娘、建速紗雨の顔を張り付けて加工した卑猥な写真だった。
「千隼さん達が見せられた証拠写真ってこれかっ? ポルノ雑誌を使った、露骨なコラージュ写真じゃないか!?」
「クマ国じゃあ、地球よりもエンターテイメントが未発達だからなあ。画像加工ソフトを使った切り貼りだが、何も知らなきゃあ騙されても仕方ないぜ」
「に、にせものだったのですね。ごめんなさい」
桃太に乂、千隼達の視線が写真に釘付けになるが、それが不味かった。
「ぐひゅひゅ、だからクマ国人はモンスターと同じ蛮族だというのだ。我々の策に面白いようにハマる。なぜ、写真を影の中へ入れてばら撒いたと思う? そもそも、出雲桃太とヤタガラスをぶつける狩り場に、わしが一人で赴くとでも思ったか? 索井靖貧、郅屋富輔、出番だぞ。ガキどもと鴉どもを殺せ!」
「「舞台登場 役名宣言――〝夜狩鬼士〟!」」
七罪業夢は、彼が代表を務める元勇者パーティ、〝K・A・N〟の冒険者を、異界迷宮カクリヨの第九階層〝木の子の谷〟にあらかじめ伏兵として潜ませていたのだろう。
焔学園二年一組とヤタガラス部隊が、業夢と写真に意識を寄せた隙をついて、血のように暗い赤で塗装した蒸気鎧を着る七罪の冒険者達五〇人が二隊、合わせて一〇〇人が木々の茂みから姿を現した。
「富輔と一緒だから気が滅入っていけないや。親分、血を吸っても肉を食ってもいいんですかい!?」
「靖貧め、これだからがっつく奴はいけない。せっかくの売り物を壊さないでくださいよ」
「……一ヶ月といえ、蛮族になりすましてヨシノの里に潜伏するのは疲れただろう。鬱憤を晴らして食欲を満たすも、加工して売り払うも好きにするがいい」
「「ギャハハ、イタダキマース!」」
鋼鉄の鎧で武装した赤い鎧の悪鬼達は、背部のランドセルに似た蒸気機関に火を入れて、オルガンパイプめいた排気口から煙を吹き出しながら、無防備な研修生と鴉天狗達を背後から襲いかかった。
「血、血をよこせ!」
「剥製の素材になっていただきましょう!」
あとがき
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