第338話 心を弄ぶもの
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額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が行く手を阻む影の剣と槍を衝撃の刃で斬り散らし、道を確保するや……。
彼の相棒である金髪ストレートの若き少年、五馬乂は、風をまとって低い姿勢で突進。
カメレオンじみた体格の老冒険者、七罪業夢が振るう影のハサミを踏み台に肩口からぶつかって標的の頭を抱え、背後へ倒れるようにして地面へ逆さまに投げ落とした。
「垂直落下式ブレーンバスター、こいつは避けられまい!」
「ぐひゅひゅひゅ。風の鬼術を加えたプロレス技など、受けたのは初めてだ。これだから戦いはやめられん!」
業夢は竜巻に胴体を切り刻まれながらも、頭を地面にぶつける寸前、影を操ってクッションをつくり、僅かに衝撃を緩めたようだ。
「ごほっ、げほっ。酔っているといえば否定はせんよ」
業夢は咳き込みながらも、再び自らの影を広げて、数百に及ぶ〝傲慢の剣〟と〝強欲の槍〟に変えて応戦。
「乂の投げ技を受けたはずなのに、影の勢いが更に増した!?」
「ザッツ、アノイイング(うざったいぜ)!」
老いたが故に、体幹や反射がものをいう近距離戦より、ペースを掴める中長距離が得意なのだろう。
業夢は、桃太と乂に加えて、学園二年一組の生徒達へ怒涛の攻撃を浴びせながら、ゆっくりと間合いを取った。
「だが、そんな酔っ払いにいいように扱われているクマ国はどうだ?
そもそも蛮族どもの代表、カムロからして戦士としては傑物だが、支配者としては落第ではないか?
最高権力者の癖に、里の自治に任せて畑で汗を流すなんて、支配する気がないとしか思えん。上が政治に無関心だから、下も簡単な偽造写真に騙される。なあ、葉桜千隼あ?」
「そ、それは違う。カムロ様は我々をずっと見守ってくださっている。私達が貴方に騙されただけだ。卑怯者め!」
鴉天狗の小隊長、葉桜千隼はこの挑発に怒り狂い、斬りかかろうとした。
しかし、半裸姿から黒コートに着替えたといえ、彼女の武器である蛇腹剣は、先の桃太との戦いで破損している。
「ぐひゅひゅ。里を治める上司だから疑わなかった? 防諜部隊であるヤタガラスの隊員とは思えない迂闊さだな。『怠け者の欲望は、その身を殺す。その手が働くことを拒むからだ』という戒めもあるからなあ。〝怠惰の槌〟よ、鴉どもを押し潰せ!」
業夢はそんな千隼を嘲笑いながら、影を束ねて空中に全長一〇メートルはあろう巨大なハンマーをつくり、彼女と鴉天狗達をペシャンコにしようとした。
「まずいっ、葉桜隊長を守れ」
「ぐひゅひゅ、竜巻を創り操るなどという大技を使ったのだ。今のお前たちはガス欠も同然。どんなに高性能な車も燃料がなければ動かんわ。お前たちの肉体は再生加工して、標本として愛でてやろう」
「や、やられる!?」
「みんな、逃げてくれ」
鴉天狗達の肉体が、膨大な質量によって押しつぶされようとしたその時。
「我流・長巻! ダブル!」
先に刃を交えたはずの桃太が飛び出して、両腕から伸ばした三メートルの衝撃刃二本で槌の落下を止め、千隼達のピンチを救った。
「桃太さん、どうして?」
「一度戦い終わったらノーサイドってね!」
あとがき
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