第337話 七罪業夢と狂気
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「乂、この人強いぞ」
「相棒、見かけに騙されるな。七罪業夢は素行こそ最悪だが……、英雄、獅子央焔が異界迷宮カクリヨのモンスター討伐を始めた黎明期からのベテランだ。いわば、日本最古の冒険者。戦闘経験で、こいつを上回る奴はいない!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、彼の相棒である金髪少年、五馬乂が、老冒険者の意外な強さに戦慄する一方……。
「ぐひゅひゅ。わかっておるではないか。新しき英雄、出雲桃太に、生きておった五馬乂。若さゆえの無鉄砲だろうが、二人とも傷を恐れず前に出るのは及第点。勇者たるもの、こうでなければなっ」
七罪業夢はカメレオンのように長い舌を振り回しながら笑ったものの……。
近寄れば、巨大な〝嫉妬の鋏〟で制し、離れては一〇〇を超える〝傲慢の剣〟を放ち、と影の武器を自在に操って、攻め込む隙を与えない。
「若造どもっ、腰が弾けているぞっ。『己がために財宝を地に積むなかれ。蟲と錆とが損ひ、盗人によって穿たれる』――〝強欲の槍〟よ、貫け!」
「うわっ」
「今度は中距離。あの影、全距離自在かよ」
加えて、業夢が死角から槍のように突き出したことで、さしもの桃太や乂も避けられず鮮血がしぶく。
「ああ、甘い。獅子央焔が亡くなって一〇年あまり、六辻剛浚らのように、最近のなまっちょろい勇者パーティは、王侯貴族気取りでビルだの城だのに籠もっているから困る。ワシらは冒険者ぞ。自ら戦場に立たねば、血を流すことも、血を浴びることもできんだろうが!」
業夢は影を繰り出しながら、うっとりと舌鼓を鳴らす。
「どうだ、出雲桃太、五馬乂。我らに協力するつもりはないか? 先にも言った通り、ワシはヨシノの里をのっとるに留まらず、やがてはクマ国すべてを支配するという大望がある。地球の日本ごとき小国にこだわる他の勇者パーティとは器が違うのよ!」
桃太は、あまりに稀有壮大な老人の言動に呆れた。
「貴方は、そんなくだらない理由で、地球とクマ国の間で惑星間戦争を引き起こすつもりか?」
「戦争? おかしなことを言うのお。
出雲桃太よ、お前は異界迷宮を徘徊するモンスターと戦うことを戦争と呼ぶのかね?
異世界の蛮族は怪物と同じで〝人間ではない〟。
東夷、北狄、西戎、南蛮。
華夏たる我等にあらずば、人にあらずっ。討伐して何が悪い!」
乂は、業夢が唾を飛ばして説いた暴論にブチ切れた。
「ゲスジジイが、時代遅れの選民思想とイデオロギーに酔っ払いやがって! 相棒。援護を頼む!」
「任せろっ。我流・長巻!」
桃太が行く手を阻む影の剣と槍を衝撃の刃で斬り散らし、道を確保するや、乂は肉体に風をまとわせ低い姿勢で突進。
業夢が振るうハサミを踏み台に肩口からぶつかって、舌の長い頭を腕で挟みながら持ち上げ、背後へ倒れるようにして地面へ逆さまに投げ落とした。
「垂直落下式ブレーンバスター、こいつは避けられまい!」
「ぐひゅひゅひゅ。風の鬼術を加えたプロレス技など、受けたのは初めてだ。これだから戦いはやめられん!」
あとがき
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