第336話 日本最古の冒険者
336
「ぐひゅひゅ。伊達や酔狂でこの年まで現役を続けたわけではない。本物の猪笹たたらと、この場にいる全員を葬り、適当な写真をでっちあげれば万事解決。出雲桃太はヨシノの里長とヤタガラス隊を殺害した悪党としてクマ国に汚名を刻み、わしらはそれを討ったクマ国の勇者として、カムロから実権を奪い取ることが叶う。すべては我が策のうちよ!」
西暦二〇X二年八月一二日午後。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、日本政府から預かった親書を届けるべく、冒険者パーティ〝W・A〟の仲間達と共に、迷宮の奥深くにある異世界クマ国を目指していたところ――。
『桃太がクマ国の代表であるカムロの養女、建速紗雨にハレンチな行為で、結婚を無理強いした』
という身に覚えのない嫌疑をかけられて、葉桜千隼ら防諜部隊ヤタガラスに所属する鴉天狗小隊の襲撃を受けてしまった。
しかし、すべては桃太を悪役にしたてあげ、彼を討つことでクマ国の人心を得ようとするテロリスト団体〝K・A・N〟の代表、七罪業夢の野望だったのだ。
「遥花先生、それに賈南さんは、そのまま防御をお願い。紗雨ちゃんは二人のフォローに回って。乂、異世界間戦争を引き起こしかねない業夢さんの野望はここで終わらせる。仕掛けるぞ」
「サメーっ。わかったサメエ!」
「シャシャシャ。おうよ、相棒。最初はてっきり八闇家が黒幕と思っていたが、七罪家にも山ほど貸しがあるんだ。ここで返して貰う。リンは葉桜達を守ってやんな」
「ニャー!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が、先程までコンビを組んでいた銀髪碧眼の少女、建速紗雨の隣から飛び出すや……。
もう一人のパートナーである金髪少年、五馬乂もまたカメレオンを連想させる舌の長い老人、七罪業夢を取り押えようと地を蹴った。
「まずはひとあて、我流・直刀!」
「そっちが七罪家の〝勇者の秘奥〟――〝影の使役術〟を使うなら、こっちは五馬家秘伝の〝葉隠〟いや、〝ハイド・ザ・リーブズ〟を見せてやるぜ。ラリアット!」
桃太は衝撃波をこめた右のローキックで足を狙い、乂は風をまとった左腕で首を刈ろうとする。しかし。
「ぐひゅひゅ。まったく血気盛んなことよ。しかし、それはワシにただ張り合いたいだけではないかね? 聖書の『ガラテヤ人への手紙』に曰く『互いに挑み合い、互いに妬み合い、虚栄に生いきてはならない』――〝嫉妬の鋏〟よ、断ち切れ!」
そんな若者二人の上下同時の攻撃を、業夢は首飾りの鈴をギンギンと鳴らしながら、七罪家の〝勇者の秘奥〟――〝影の使役〟によって作り上げた影の大ハサミで迎撃する。
「あんな使いにくそうな武器なのに、足の衝撃が切り裂かれた?」
「腕の風もだっ。首飾りみたいな〝鬼神具〟の助けもあるんだろうが、このジジイ、〝鬼の力〟の使い方がやたら上手いっ!」
桃太と乂は、戦闘スタイルこそ全く違うものの、元勇者パーティ〝C・H・O〟の〝剣鬼〟鷹舟俊忠を連想した。
あの時は、桃太が宿す〝巫の力〟が偶然にも天敵として機能したが、今回はそんな幸運はなさそうだ。
「乂、この人強いぞ」
「相棒、見かけに騙されるな。七罪業夢は素行こそ最悪だが……、英雄、獅子央焔が異界迷宮カクリヨのモンスター討伐を始めた黎明期からのベテランだ。いわば、日本最古の冒険者。戦闘経験で、こいつを上回る奴はいない!」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)