第335話 七罪家の秘奥と野望
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八大勇者パーティのひとつ〝C・H・O〟元代表であり、今は三毛猫に化けた三縞凛音が赤い瞳から真紅のレーザーのごとき浄化の炎を発するや――。
ヨシノの里長であるである猪笹たたらの姿が燃え落ちるように消えて、無数の鈴を束ねる首飾りをつけた、カメレオンを連想させる舌の長い年配の男が現れた。
「ちいいっ。このような場所で正体を晒す羽目になるとはっ!?」
「その姿は、まさかっ、貴方は七罪業夢? 七罪家の当主が自ら迷宮に赴いたというのですか!?」
冒険者組合の付き合いから、業夢とも顔見知りであった焔学園二年一組の担任教師。矢上遥花は、葉桜千隼らクマ国の防諜部隊ヤタガラスを騙していた黒幕がまさかの大物であったことに驚きつつも、栗色の髪を束ねる自らの武器、赤いリボンを花弁のように伸ばして、生徒達を守るべく布の盾を作りあげた。
「おいおい、年寄りの冷や水とはこのことか。元勇者パーティ、いやさ、テロリスト団体〝K・A・N〟の代表が、自らスパイごっことは驚いた!」
また、かつては冒険者組合の代表である獅子央孝恵の妻として辣腕をふるい、業夢とは政治の世界で火花を散らした獅子央賈南が若返った――昆布のように艶のない黒髪の痩せっぽち少女。
伊吹賈南もまた、七罪業夢が前線に出ていたことに目を見開きながらも、黒い服の裾から針の発射装置やトリモチ罠をばら撒いて、布盾の隙間を埋める。
「ぐひゅひゅ。獅子央焔の最後の弟子、矢上遥花に、年齢詐称の鬼女、伊吹賈南か。よいよい、わしを見破った褒美に、七罪家に伝わる〝勇者の秘奥〟を見せてやろう。旧約聖書に曰く『高ぶりは滅びに先立ち、誇りは倒れに先立つ』――〝傲慢の剣〟に裂かれよ!」
「シャッ? アウツ!?」
老いたる悪党は首飾りにつけた鈴をギンギンとならしながら足元の影を隆起させて乂の関節技を力任せに解くや、一〇以上の剣を作り上げて、若き研修生達を守ろうする遥花のリボンの防壁を嵐の如き勢いで切りつけた。
「これが、七罪家の〝勇者の秘奥〟――〝影の使役〟!?」
遥花はリボンで受け流そうとするも、影の剣による衝撃が大きすぎたあまり、戦闘服から突き出した大きな胸を弾ませながら後ずさり。
「のわーっ。せっかく仕掛けた罠を壊すなーっ」
賈南は細い身体で壊された器物をすりぬけるも、あっという間に壊されてしまった防衛陣の修復にやっきになる。
「伊吹、なにやってるんだ。相手は一人だぞ。って、剣の数が多いっ」
「先生、いつの間にか包囲されて、百、二百、いえ三〇〇を超えてる!?」
「ぐひゅひゅ。伊達や酔狂でこの年まで現役を続けたわけではない。本物の猪笹たたらと、この場にいる全員を葬り、適当な写真をでっちあげれば万事解決。出雲桃太はヨシノの里長とヤタガラス隊を殺害した悪党としてクマ国に汚名を刻み、わしらはそれを討ったクマ国の勇者として、カムロから実権を奪い取ることが叶う。すべては我が策のうちよ!」
あとがき
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