第334話 黒幕の正体
334
西暦二〇X二年八月一二日昼。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、鴉天狗の葉桜千隼率いる防諜部隊ヤタガラス小隊と交戦し、クマ国代表の娘、建速紗雨を誘拐したという誤解を解くことに成功した。
「なんでだあ、どうしてこうなった!?」
「ぷんすかサメ」
「「わっしょいわっしょい!!」」
しかしながら、決め技だった〝生太刀・草薙〟の余波で、実は女性だった千隼の衣服を破いてしまったことで、焔学園二年一組のクラスメイトから厳しいお仕置きを受けてしまう。
「おーい、乂。相棒のピンチだぞ。ちょっとくらい、林魚達をなだめてくれ」
桃太はもみくちゃにされながら、相棒である金髪ストレートの少年、五馬乂に仲介を求めようとしたが、近くには見当たらなかった。
「あれ、そういえば乂とリンさんは、どこだ?」
「ワッツアサプライズ(おいおい)!? 相棒、ちょっと目を離した間に、ボコボコにされたな? こっちだこっち。こいつが葉桜達をけしかけた黒幕だ」
乂は、三毛猫に化けた彼の幼馴染、三縞凛音を肩にのせ、赤と黄に染まる草花の生えた丘の向こう側から、痩せこけた老人を力任せに引っ張っていた。
「「ひ、ひとさらい!?」」
千隼ら、鴉天狗達が仰天したのも無理はない。
乂は背中に『漢道』と刺繍した革ジャンを素肌の上に羽織り、太腿の付け根から裾まで広いドカンめいたボトムを身につけ、足には金属輪で補強したライダーブーツを履くという、勘違い不良ファッションに身を包んでいた。
何も知らない者が一見すれば、若い暴漢が老人を引っ張っているようにしか見えないだろう。
そして、枯れ木の如き老人の顔を見た千隼達は驚きの声をあげた。
「あ、貴方はヨシノの里長、猪笹たたら様。どうしてここに?」
「部下達が心配で見送りに来たのだよ。それを、忌まわしき反乱者である〝前進同盟〟のスパイに捕まったのだ。クマ国に楯突く三下め、ヨシノの里長たるワシに対する無礼千万、ただで済むと思うなよ」
棒きれのように老いさらばえた老人は乂に手を掴まれながらも、年齢と体格に見合わぬ力で暴れ始めた。
「ファッキュー、この外道め! クマ国に仇なすスパイの三下はどっちだよ? 相棒がクマ国の反政府団体〝前進同盟〟の影響が少ないヨシノの里を目指したように、アンタも同じ理由で目をつけたんだろ!」
しかし、乂は動じることなく腕の関節を極めて断言した。
「アンタは知らないだろうが、今のクマ国で、忙しい里長がカクリヨに来る暇なんてあるものか。オレのクールな判断力と、リンの目は誤魔化せないぜ」
「ニャンニャ、ニャン!(ワタシと乂は、最高のパートナーなのよね。浄化の炎よ、真の姿を暴きなさい!)」
三毛猫姿の三縞凛音が赤い瞳から真紅のレーザーのごとき浄化の炎を発するや、ヨシノの里長である猪笹たたらの姿が燃え落ちるように消えて、無数の鈴を束ねる首飾りをつけた、カメレオンを連想させる舌の長い年配の男が現れた。
「ちいいっ。このような場所で正体を晒す羽目になるとはっ!?」
「その姿は、まさかっ、貴方は七罪業夢? 七罪家の当主が自ら迷宮に赴いたというのですか!?」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)