第333話 葉桜千隼
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「……葉桜さんって、まさか女の子?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、葉桜千隼が墜落死しないよう片手を掴んだのだが、もう一方の手で不自然に胸を隠していたことから、はてと首を傾げた。
よくよく見れば破けた法衣から、女の子らしいまるみを帯びた白い太ももと、鞠のような胸の膨らみがまろびでているではないか?
「はい。私、男と思われていたのですか? 種族のちがう、地球の人ですから仕方ありませんね」
桃太は、このままではいけないと自前の戦闘服を脱いで、彼女の肩に掛けようとした。
しかしながら、千隼は上半身素っ裸となった彼を間近で見たことで、頬を赤く染めながらも首を横にふり、受け取りを拒否した。
「いえ、私も武門の端くれ、お気遣いは無用。今の戦いで紗雨姫が本物であることと、出雲様を誤解していたことを確信しました。部下達にも怪我をさせないよう配慮してくださったのですね。誠に申し訳ない」
「あ、ああ。気にしなくていい。お互い様さ」
桃太が千隼と地上に降りたところ、さっきまで戦っていた彼女の部下、防諜部隊ヤタガラスの面々が集まり、口々に謝罪した。
「「たいへんなご迷惑をおかけしました。疑ってすみません!!」」
「いいよいいよ、構わない。これでハッピーエンドってことにしない? だめ?」
桃太は内心で焦るあまり、話を手早く終わらせようと急いでいた。
なにせ、さっきまで仲間だったはずの、冒険者パーティ〝W・A〟の大半が、今や敵に回っていることを自覚していたからだ。
「サメー……」
特に怖いのは、背後で怒気をあげるパートナー……。
空飛ぶサメに変身した銀髪碧眼の少女、建速紗雨だ。
「サメエエっ、桃太おにーさんのバカバカバカっ」
彼女はさほど力をこめていないといえ、悲しげに鼻をすすりながら、尾っぽでぺちぺちと背中を叩き始めた。
「千隼さんの服を脱がす必要なんて無かったサメー!」
「葉桜さんが使っていた蛇切丸は、ものすごいギミックがあったんだよ。服の中に刃を隠していたら怖いじゃないか!」
桃太の抗議は、戦場ゆえに正当なものだったが――。
「アハハっ。さすがは出雲桃太。妾が見込んだ英雄よ。ここぞという場面で、きっちり裸に剥いたな!」
「出雲さんって、実はスケベだったんですね。そういえばみっちゃんも、〝男の子は皆、狼だ〟って言ってました」
「ちょ、ま」
「「や、やはりダメ勇者ではないか……!?」」
八岐大蛇のエージェントであり、昆布めいた艶のない黒髪が特徴的な痩せっぽちの少女、伊吹賈南と、二つのお団子髪でまとめた赤い頭髪の上に、天使を連想させる光輪を浮かべたグラマラスな少女、六辻詠がチャチャを入れたことで、誤解による炎上を加速させてしまう。
「どうにもしまらないあたり、出雲だよね。遠亜っち、替えの服持ってない?」
「任せて心紺ちゃん。ああいうところ、出雲君らしくて困るよ」
「え、その鞄、どうなっているんです? あ、この黒いコート、お借りできますか?」
サイドポニーの目立つ少女、柳心紺と、瓶底メガネをかけた白衣の少女、祖平遠亜が千隼の元にかけ寄り、内部空間操作鞄からあれやこれやと替えの服を出して着替えさせ始めた。
「よお、出雲。勝利祝いだ。胴上げと行こうぜ」
「は、林魚に、関中、羅生。お、お手柔らかに」
「紗雨ちゃんを悲しませる相手なら……」
「出雲であっても、問答無用……!」
その間に桃太が、モヒカンの雄々しい林魚旋斧を筆頭とする仲間達に締め上げられたのは言うまでもない。
「なんでだあ、どうしてこうなった!?」
「ぷんすかサメ」
あとがき
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