第331話 蛇切丸の脅威
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「くっ。このまま地球の勇者と紗雨姫に地の利を奪われては、勝ち目がなくなる。こうなれば、こちらも奥の手を使うしかない。我が〝鬼神具・蛇切丸〟よ、どうか応えてくれ」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、仮面に変身した建速紗雨の猛攻に対し、クマ国の防諜部隊ヤタガラスの小隊長である細身の鴉天狗、葉桜千隼もまたギリギリまで伏せていた切り札の投入を決めたらしい。
千隼が黒い翼をはためかせて水を弾きながら空中でホバリングし、蛇腹剣を天に掲げるや、連結していた木の葉状の刃がバラバラに解け始めたではないか?
「これはっ、葉桜さんの剣が壊れた?」
「違うサメー、きっと柳ちゃんの〝砂丘〟みたいに、固まったりバラけたりできる武器なんだサメーっ」
紗雨の推測は正しかった。
連結が解かれた千隼の刃は、薄桃色に輝く雷を帯び始め、その様子はさながら満開の桜模様だ。
「雷ならば水を貫通できる。紗雨姫、お許しをっ。地球の勇者ごと麻痺させます。奥義、〝桜雲絶景〟!」
「散らばった刃は速いし量も多い。でも、受け流せるはずだ」
桃太は、膨大な数の刃を避けきれないと見て、右手に巻きつけた水のドリルで弾こうとした。
「あちっ」
「桃太おにーさん、触っちゃ駄目サメーっ」
しかしながら、雲を連想させる桜色の刃は、あたかも風に舞う花びらのようにするりとのがれ、逆に雷を放って反撃してきた。
「我が刃を捉えることは不可能。攻撃が強ければ強いほどにその勢いを利用し、痛撃を返すのです」
「そんなのアリ!?」
「桃太おにーさん。あっちこっちから来るサメー。水の盾も破られちゃうサメーっ。サメ分身で避けるサメェ!」
桃太と紗雨は盾と囮を生み出して、雷刃を辛くも回避したものの……。
水柱や水人形は蟻に群がられた砂糖のようにあっという間に蒸発してしまい、追いかけっこは終わらない。
「紗雨ちゃん。こうなったら、やられる前に千隼さんを戦闘不能にするよ」
「わかったサメー。サメが海を泳ぐ速度は人間の一〇倍。ましてや空ならもっと速いんだサメエエ」
「紗雨姫。お言葉ですが、鰐鮫が空を泳ぐのは映画の中だけです!」
桃太と紗雨は逃げきれないと見るや、千隼のツッコミを無視して、ジグザクに上下左右へ方向転換を繰り返し……。
「包囲されているなら、隙間を作るまでだ」
「白兵戦の距離なら、きっと四方からの攻撃もできないサメー」
めいっぱい桜花の雷刃を引きつけた直後、反転して真っ直ぐに千隼へ接近した。
その速度たるや、蛇切丸の刃を振り切り、音すらも置き去りにするかのようだ。
「大口を叩くだけはある。まさしく神速ですが、桜舞う雲から逃れるすべはありません」
そんな二人の行動を読んでいたかのように、下方に分けて待機させていたのだろう、桜色に輝く刃の群れが先回りしていた。
「そろそろ幕引きと致しましょう。カムロ様より賜りし、我が秘術をご覧あれ。八雷神がひとつ、〝若雷神〟。これが大蛇を断つ雷の御柱です!」
桃太と紗雨はあと一歩というところで迫ったものの、千隼が左手を突き出すや天まで届く雷光の柱が立って、ドーン! という爆音が轟いた。
あとがき
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