第330話 桃太と紗雨のコンビネーション
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「ニャー(大丈夫、ワタシの目はもう桃太君の勝利を見ているわ)」
クマ国への案内人を務める金髪ストレートの長身少年、五馬乂と、三毛猫に化けた少女、三縞凛音が、異界迷宮カクリヨの第九階層〝木の子の谷〟の外れへと走り出すと、まるで猫の予言が的中するかのように空中の戦況が激変した。
「紗雨ちゃん、これでいいんだね、」
「桃太おにーさん、うまいサメエ。サメは、空だって飛べるサメー」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、銀髪碧眼の少女、建速紗雨が変化した仮面をかぶり、高木の幹に掴まってぐるぐると回転。空中に大量の水をばらまき始めたのだ。
「さすがは紗雨姫。水気のない空中で、これほどの水術が可能とはっ!」
防諜部隊ヤタガラスの特務小隊長である、黒い法衣を着た細身の鴉天狗、葉桜千隼は長い前髪に隠れた目を大きく開けた。
「「いくぞ、ドリルタイフーン!(サメー)」」
桃太は右手に巻きつけた水のドリルを突き出しながら、あたかも竜巻のごとく空中を旋回飛行し、千隼と切り結ぶ。
「水のドリルと我流・直刀でどうだっ」
「持ってけ水弾サメエ」
「効きませんよっ。力任せで単調な攻めなど、我が〝鬼神具・蛇切丸〟に通じない」
千隼は燃える細刃を連ねた愛用の蛇腹剣を鞭のようにしならせて、桃太の右手で回る水ドリルと左足の水刃を逸らすが、ジュワジュワという水の蒸発する音が連続で響いた。
「しまった、ニセ勇者と紗雨姫の狙いはこれかっ」
桃太と紗雨はたっぷりとばら撒いた水を攻撃にまぜこみ、千隼が持つ蛇腹剣から噴き出す火を鎮め、刀身から熱を奪い去っていた。
「よし、勝機が見えた」
「このまま、戦闘不能に追い込むサメエっ」
桃太と紗雨は高木の幹や枝を蹴りつつ、更なる変幻自在の動きで千隼を追い詰める。
「ドリルではない? 今度は蹴りか? それとも足の刃か?」
「さあてどうかなっ」
桃太は千隼が自身の行動を先読みしていることを確信したため、あえて紗雨に身体のコントロールを明け渡す。
「残念、グルッと回転サメ投げなんだサメーっ」
そして、紗雨は桃太の右手で鴉天狗が身につけた法衣の首襟を、左手で袖口を掴みとり、背負うように投げ飛ばした。
「これは柔術で言うところの、袖釣込腰! 紗雨姫の技も使えるのか?」
千隼は危うく地面への激突しそうになったものの、蛇腹剣をロープのように木に巻きつけてブレーキをかけた。
その後、再び翼を使って上昇したものの、法衣も蛇腹剣もびしょ濡れで、もはや火が点きそうになかった。
「くっ。このまま地球の勇者と紗雨姫に地の利を奪われては、勝ち目がなくなる。こうなれば、こちらも奥の手を使うしかない。我が〝鬼神具・蛇切丸〟よ、どうか応えてくれ」
どうやら桃太と紗雨の猛攻に対し、千隼もまたギリギリまで伏せていた切り札の投入を決めたらしい。
若き鴉天狗の小隊長が黒い翼をはためかせて水を弾きながら、空中でホバリングしつつ、蛇腹剣を天に掲げると、連結していた木の葉状の刃がバラバラに解け始めたではないか?
あとがき
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