第329話 クマ国の混乱
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「ああ。オレが思うに、クマ国ヨシノの里は、すでに悪意ある何者かにのっとられている」
クマ国への案内人を務める金髪ストレートの長身少年、五馬乂と、三毛猫に化けた少女、三縞凛音の推理を聞いて……。
焔学園二年一組の担当教師であり、冒険者パーティ〝W・A〟の指揮官でもある矢上遥花は衝撃のあまり、フリルで飾ったスーツの胸元を大きく揺らしながらのけぞった。
「あのカムロ様が統治する平和なクマ国で、里をのっとるなんて大それたことは可能なのでしょうか?」
「平和だからだ。クマ国は半世紀以上前に地球と同様、八岐大蛇に襲われたといえ、人間同士の戦争が長い間なかった。だから〝他所の国が工作をかけてくる〟といった事態を、そもそも想定していなかったんだぜ」
「それは、そう、かもしれません」
地球における天災を鑑みても、よくあることだ。
台風に遭遇することの少ない北国は、雨の備えがおろそかになりがちだし、雪の珍しい南国では降雪で公共交通機関が停止することだってある。
地震や津波に縁のない国が、耐震補強や堤防の備えを怠っていた場合、いざという時の被害は天文学的なものとなるだろう。
「カムロさんは、地球の存在を知った後……、外交と情報収集を兼ねた組織を置いたんだけど、まるごと裏切るというか、反乱されちゃったみたいなのよね」
「カムロ様の片腕であったはずのオウモさんが、反政府組織となった〝前進同盟〟を立ち上げたことは知っています」
最も地球を知る人物が、政府に反旗を翻したのだ。
クマ国は、地球を把握するための手段、ひいては地球から自世界を守るための手段を喪失し、組織再編の真っ最中だという。
「対外折衝の長が、今や反政府組織のトップなんだから、笑い話にもならんぜ。カムロは次善の措置として、今までクマ国内部と異界迷宮カクリヨ内の情報収集を担当していたヤタガラスに防諜権限を与えたんだが、元は西部劇の保安官みたいな自治組織だからな。なにもかも筋肉で解決しようとする猪武者が多くて、サメ子言うところの〝強いのに騙されやすい〟本末転倒な有り様になっちまった。訓練と実戦でいずれ克服できるだろうが、今はオレやリンまで駆り出さないとどうにもならないのが実情だぜ」
「〝前進同盟〟が蜂起した結果、クマ国は地球のスパイが易々と入り込めるくらい混乱しているのよ。日本の八大勇者パーティがヨシノの里を乗っ取っているのだとすれば、桃太君への極端な誹謗中傷も頷けるでしょう?」
遥花は乂と凛音の説明を聞き、腑に落ちたとばかりに頷いた。
どうやらこの場で葉桜隊を打倒するだけでは、根本的な解決にはならないようだ。
「オレ達二人が居なくても、今のアイツには、先生や〝W・A〟の頼れる仲間がいるだろ。初めての戦場と、慣れない空中戦に難儀しているようだが、葉桜千隼と鴉天狗部隊の手札をここまで暴いた以上、勝ちは決まったも同然だぜ。それより、黒幕ごっこしてるバカを抑えておかないとな」
「わかりました、信じます」
「ニャー(大丈夫、ワタシの目はもう桃太君の勝利を見ているわ)」
乂と凛音が、木の子の谷の外れへと走り出すと、まるで猫の予言が的中するかのように、空中の戦況が激変した。
あとがき
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