第328話 乂の推理
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「シャシャシャ! いい雰囲気じゃないの。代表だけじゃなくて、団員が一丸となってこその冒険者パーティだぜ。もう勝負は見えたっ。リボ……遥花先生、ちょっと気になる気配をみつけた。あの茂みの先にリンと行ってくるぜ」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が代表をつとめる冒険者パーティ〝W・A〟と、前髪の長い細身の鴉天狗、葉桜千隼が率いるクマ国の防諜部隊ヤタガラスが、クマ国代表の娘、建速紗雨を巡って、熾烈な戦闘を繰り広げる中――。
「ニャニャー(千早さん達をけしかけた黒幕が、きっと近くにいるわ)」
クマ国への案内人を務める金髪の長身少年、五馬乂と三毛猫に化けた少女、三縞凛音は、立場上、相撲以外の積極的な交戦は避けたいのか索敵を担当していたところ、なにやら怪しい気配を見つけたらしい。
二人は一騎打ち中の桃太に代わって全体の指揮をとる、焔学園二年一組の担任教師、矢上遥花に、調査の為に戦線を一時離れたいと申し出た。
「戦闘は拮抗中です。乂くんは、桃太くんの側にいなくていいのですか?」
遥花は、栗色の髪を束ねる赤いリボンこと、〝鬼神具・夜叉の羽衣〟を用いて、味方の治療、支援、指揮とまさに八面六臂の活躍を見せていたが――。
だからこそ、乂と凛音という重要戦力二人に、戦場を離れて欲しくはなかった。
「く、このっ」
「サメーっ」
「偽りの勇者と紗雨姫、貴方達の使う水はすべて蒸発させていただきます!」
第一に、空中にいる桃太と紗雨は、どうみても千隼に苦戦していたし――。
「葉桜隊長は、あのカムロ様が直々に観てくださる過酷な修行を、竹コースでやり遂げたんです。負けるはずない」
「修行の途中で逃げ出したエセ勇者にな実力を見せつけてやってくださいっ」
「おいこら出雲、押されてるじゃないか、しっかりしろ」
「紗雨ちゃんと合体、ごほん。一緒なんだから気張りなさい」
第二に、地上にいる焔学園二年一組の研修生と鴉天狗の戦闘も、今は天秤が釣り合っているものの、戦闘が長時間に及べば総合能力に勝る相手が有利となるだろう――。
「おいおい、センコー。相棒は、以前クマ国に来た時、葉桜千隼が合格したという竹コースより更に難易度の高い、松コースを突破済みなんだ。負けるはずがないぜ」
乂は長い金色の髪をかきあげるようにして自信満々に言い放ったものの、すぐさま眉をひそめて深刻な表情を浮かべた。
「他の誰でもないオレが相棒に交戦を勧めたから、言いにくい話なんだが……」
乂はゴホンと咳き払いをすると、ほぼ全員が気づきながら目を逸らしている真実を口にした。
「本来なら、オレ達が日本政府の親書を届けるはずの相手、クマ国の部隊と戦闘になったこそが大問題だ。託してくれた孝恵のおっさんが聞いたら、ショックでひっくり返っちまうぜ」
「ですが、乂くんには、そうしなければならないと、桃太くんに勧めた理由があるのでしょう?」
遥花の問いかけに、乂は首を縦にふった。
「ああ。オレが思うに、クマ国ヨシノの里は、すでに悪意ある何者かにのっとられている」
あとがき
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