第326話 行者 対 鴉天狗
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「舞台登場、役名変化――〝行者〟。サメイクヨー!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、その身体に宿す〝巫の力〟が発動させ、青く輝く左目の上に、クマ国代表カムロの養女である銀髪碧眼の少女、建速紗雨が姿を変えたサメ顔の仮面を被り、白衣と鈴懸を羽織った法衣姿に変身した。
「葉桜千隼。ここで決着をつける!」
桃太が右手にまとわせた水のドリルを正面へ繰り出し、円形の防御陣を敷いた異世界クマ国の防諜部隊ヤタガラスの中心に向かって突撃するや、鴉天狗達が大きくどよめいた。
「どういうことだ? あのニセ勇者め、瞳の色が〝鬼の力〟を示す赤色ではなく、青色だぞ?」
「あれではまるで、太古の伝説に謳われる〝巫の力〟ではないか?」
「でも〝巫の力〟って、異界迷宮カクリヨと八岐大蛇が作り出した〝鬼の力〟じゃなくて、クマ国の天然自然が分け与えた神秘的な力と聞くぞ」
「だったら尚更あり得ないだろ。クマ国の民ならいざ知らず、地球人が選ばれるのはおかしい」
「鎮まれっ。目の色など術でいくらでも変えられる。見え透いた小細工に惑わされるな!」
ヤタガラスの特務小隊を率いる前髪の長い細身の鴉天狗、葉桜千隼は、動揺する同胞を一喝して、防衛の為に方円陣を組み直させた。
「だが、出雲桃太。どうやら貴方は、ヨシノの里長。猪笹たたら様から聞いた風評や写真で見た淫猥な姿とは、まるで異なるようだ。しかし、部下たちの安全を確保するためにも退けない。何より、嫁入り前の紗雨姫と人前で合体するなど認められません! 副官、あとは頼みます」
「お任せを!」
そして千隼もまた、桜の葉に似た小刃を連ねた蛇腹剣を手に、背の翼をはためかせて桃太へ向かって飛翔した。
「「合体って、そういう意味じゃなーい」」
桃太と紗雨は、圧倒的な速度と突進力を生かして千隼の懐に飛び込もうとするが。
「なるほど速いし、強い。しかし、武器の長さも対応力も私が上回る!」
千隼が前髪からのぞく黒い瞳をかがやかせながら、あたかも釣具を投げるように手を伸ばすや、鞭のようにしなって伸びる連結刃が、空中で螺旋を描きながら行者姿の二人に絡みついて爆発した。
「あぶなっ」
「サメメメっ」
桃太と紗雨はとっさに水のドリルを盾にして蛇腹剣を受けるも、瀑布のごとき轟音をあげる爆発をもろに浴び、更に空高く吹き飛ばされた。
「出雲桃太、貴方は紗雨姫にふさわしくないっ。我が〝鬼神具、〝蛇切丸〟よ、その力を示せ!」
千隼が蛇腹剣の柄を強く握りながら叫ぶと、鬼神具は彼女の期待に応え、バチバチという炭が爆ぜるような音を立てながら、刀身から炎が吹き出した。
「あちちっ。山火事になったらどうする気だ? 水遁の術で迎撃する」
「あついサメーっ。やけどしちゃうサメーっ」
千隼が追撃とばかりに繰り出した、連結刃に触れた木々の高枝は消し炭になり、その熱気は桃太が苦し紛れに投げた、水の手裏剣を一瞬で蒸発させるほどだ。
「カムロ様より指南を受けた、我が術技は精密にして精緻。地上の兵器が如く、延焼させる心配はありません。ここは空中、水気は少ない。紗雨姫とて全力は出せないはず。ならば、私にも勝機はある!」
「千隼さん、強いサメー!?」
「さすがクマ国、底知れない!!」
あとがき
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