第325話 凸凹の戦い
325
西暦二〇X二年八月一二日正午。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が代表をつとめる冒険者パーティ〝W・A〟は、異界迷宮カクリヨの第九階層〝木の子の谷〟で、異世界クマ国の防諜部隊ヤタガラスと交戦。
一時は三つの巨大竜巻という大技を受けてピンチに陥るも、地中に穴を掘って逆襲に成功し、第二ラウンドへもちこんだ。
「こ、このエセ勇者!」
「お前に、人の心はないのかああ!」
一方のヤタガラスの隊員である、闇色の法衣に身を包み、背から黒い翼が生えた鴉天狗達は、クマ国代表カムロの娘、建速紗雨と触れ合うチャンスを桃太に邪魔されたことで、抗議の声をあげていた。
「「距離が近いんだよっ。ああ、紗雨姫が汚されてしまう!」」
桃太は、空飛ぶサメに変身した紗雨を抱きしめつつも、鴉天狗達の言い分にはむかっときたが――。
「「うるせえ、鴉野郎ども、うちのクラスのアイドルにチョッカイだそうなんて百年早い!」」
「「何が姫様よ。そもそもさっきの竜巻、紗雨ちゃんも巻き込む気満々だったでしょう!」」
それ以上に、冒険者パーティ〝W・A〟の団員達は、頭から伸びるモヒカンが雄々《おお》しい男子生徒、林魚旋斧をはじめ、クラスメイトが男女を問わずブチ切れていた。
「紗雨ちゃんに尻をぶたれやがって、うらやまけしからん」
「私たちだって、そんな機会ないのに。絶対にゆるせない」
「サメー、怒る理由がおかしいサメーっ」
紗雨は、ぼふんという音を立てて変身を解き、サメの着ぐるみをかぶる銀髪の少女姿に戻ったものの、クラスメイト達の反応に青い目を丸くしていた。
しかも、一度着火した熱は止まらないのだ。
「付き合いの浅い地球人が何を言っている?」
「紗雨姫を愚弄する気か!」
鴉天狗達も負けずにヒートアップし、戦いはもはや地球の冒険者パーティ〝W・A〟とか、異世界クマ国の防諜部隊ヤタガラスといった所属とは関係なく……。
「「やんのかおらあ!?」」
「「その喧嘩買ってやる!」」
同じアイドルを支持するファンの解釈違い、あるいは同担拒否の心理からなる、問答無用の激突にすり替わっていた。
「みんな、ムキになってしまって。林魚君、戦士隊はそのまま突っ込んで。関中君、弓の使える者を率いて左から側面攻撃。羅生君は術師を連れて背後に回って。みなさん、さきほどの強化対策は百点満点でした。あの呼吸を忘れずに!」
「「「いよっしゃあっ、了解」」」
そんな乱戦の中でも、担任教師の矢上遥花は、的確に焔学園二年一組の生徒五〇人を指揮して、包囲網を展開――。
「彼女が地球日本の英雄、獅子央焔が育てた最後の弟子、矢上遥花か。あの才媛ぶり、ヤタガラス総隊長のアカツキ様がカムロ様の後妻に推薦したという噂も頷ける。二班と三班は下がれ、五班と六班は一班を救援しつつ前に出ろ。術師達が回復するまで、この場で方円陣を組んで迎え撃つ」
「「はい!」」
一方、ヤタガラスの特務小隊をまとめる前髪の長い細身の鴉天狗、葉桜千隼もまた負傷した部下達五〇余名をよくまとめ、即席の防衛陣地を構築する――。
「桃太おにーさん。やっぱり葉桜千隼さんがあの小隊の中心サメー。敵陣の中を突っ切るなら、忍者よりも行者が向いているサメー」
「紗雨ちゃん、一緒に戦ってくれるかい」
「もちろんサメー!」
桃太が紗雨からヒビの入った勾玉を受け取るや彼の瞳が青く輝き、手のひらから白銀の光を発して修復し――。
「舞台登場、役名変化――〝行者〟。サメイクヨー!」
あとがき
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