第324話 栄誉と不敬
324
「ただ一回の交戦でこちらの攻略法を見抜いたと言うのか。冒険者パーティ〝W・A〟は、異界迷宮の怪物退治を主任務とする我々、ヤタガラスと違って、対人戦闘に特化している。これは気を引き締めないと負けるっ」
異世界クマ国の防諜部隊ヤタガラスの小隊を率いる葉桜千隼は、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、焔学園二年一組の生徒達の評価を改め、部下である鴉天狗たちにカツを入れようとした。
「……って、貴方たちはいったい何やってるんですかあ!?」
しかしながら時すでに遅く、ヤタガラス隊の一部は、残念な醜態を晒していた。
「五馬乂さんって、エドの相撲大会で三年連続優勝されたんですよね!」
「相撲神ノミノスクネやタイマノケハヤの再来だってもっぱらの噂ですよ!」
千隼が後方に回り込むよう命じた隊員は、鴉天狗の中でも力自慢の猛者を集めたのだが、相撲好きという弱点が露呈。桃太の相棒であり、クマ国でも名の知られたスター選手である乂の元に駆け寄り、黄色い声をあげていたのだ。
「レアリー(まじで)? それって過大評価だぞ。オレはそもそもプロの力士じゃないぜ」
「でも、こんな機会はそうそうないです。手合わせしてくれませんか?」
「いいぜ、だがここは戦場だ。オレは素手だが、相撲で戦うとは限らないぜ」
「無手なら構いません!」
「よし、見合って見合って、ゴー!」
乂は腰を割り、両掌を地面につけた直後――。突進してきた鴉天狗の腰に自らの両腕を差し込み、頭部が下になるよう半回転させながら担ぎ上げて、地面へと叩きつけた。
「へへっ、どうよ!」
「こ、こんな技は、みたことがないっ」
「これが地球の相撲かあ」
「騙されないでっ。今の技は、パイルドライバー、いえ、最初期のパワーボムだっけ? 乂がやっているのは、相撲じゃなくてプロレスよー!」
このように乂がちぎっては投げちぎっては投げと鴉天狗達を吹っ飛ばした結果、三毛猫に化けた少女、三縞凛音がフォローする始末だった。
「相撲を取っている場合か、バカーっ」
そして更に酷かったのは、クマ国代表カムロの娘である銀髪碧眼の少女、建速紗雨の救出に向かった班だ。
「サメっ、サメーっ。お仕事なのはわかるけど、ろくな裏取りもしないとか、防諜部隊失格サメー。おしりぺんぺんサメ!」
こちらの鴉天狗達は、青い瞳と銀色の肌がチャーミングな空飛ぶサメに変化した紗雨の尾っぽで、尻をペシペシと叩かれていた。
「うわあああっ。すみません。証拠ならちゃんとあるんです。むむむ? これってご褒美では?」
「里長からの写真提供があったんですよーっ。紗雨姫に尻をはたかれるなんて、末代までの栄誉!」
「不敬だぞっ。今すぐ代わってくれ」
千隼の部下である鴉天狗達は、乱戦の中にも関わらず何を勘違いしたのか、紗雨にお仕置きされたがる不心得者が続出。
ノリのいい若天狗達に至っては、一列になって順番待ちをする始末だ。
「サメー、桃太おにーさん。よくわからないけどチャンスサメー」
「お前ら全員ぶっ飛ばす! 我流・長巻!」
桃太が腕から槍のように伸ばした衝撃刃を叩きつけ、箒で落ち葉を吹き飛ばすように、まとめてボコボコにしたのは言うまでもない。
「このアホどもー! 陣形を組み直す。全員戻れっ」
「「そ、そんなーっ」」
かくして、冒険者パーティ〝W・A〟はクマ国の防諜部隊ヤタガラスに対し、劣勢から優勢へと逆転、第二ラウンドへと雪崩れ込んだ。
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)