第323話 得意分野の違い
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「ハハハ、矢上遥花よ。責任をとると口にしたな。言質はとったぞ。妾はカムロに何度もボコられて、クマ国民には恨み骨髄じゃあ」
「「なんだ、変なモノが飛んできた。ネチャネチャするぞ。うまく飛べないっ」」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が率いる冒険者パーティ〝W・A〟の並み居る団員の中で一番槍を務めたのは、八岐大蛇のエージェント、伊吹賈南だった。
昆布のごとき艶のない黒髪のスレンダー少女は、桃太の必殺技カシナートを受けて動揺するクマ国の防諜部隊ヤタガラスに対し、スリング状の投石器を用いてトリモチ団子をぶつけて行動を制限し――。
「コケーッ、竜巻さえなければこの通りっ! わたくしは穴を掘るより空を飛ぶ方が好きなのですわ。もう一度、鬼術・十指光閃をくらいなさーい!」
「「あの子、鬼勇者級かっ。速いっ」」
赤い髪を二つの団子状にまとめたグラマラスな少女、六辻詠が背中に生やした白い翼で滑空しつつ、十本の指から光線を放って、動きの止まった鴉天狗達に追撃を加える――。
「〝初太刀竜巻殺〟も、〝三角暴風殺〟も、不殺縛りがあってなお凄まじい破壊力だった。でも、三つの竜巻を生み出すなんて術を行使した以上、必ず疲れがあるはず。〝砂丘〟展開、ブンオー。いくよ」
「葉桜さん。貴方達ならば、地球の軍隊相手でもやりあえるかも知れない。けれど、冒険者には冒険者なりの戦い方があることを教えてあげる!」
詠が空対空戦闘を繰り広げる下の地上では、サイドポニーの目立つ少女、柳心紺と、瓶底メガネをかけた白衣の少女、祖平遠亜が、八本足の虎に似た琥珀色の体毛を持つ式鬼ブンオーに二人乗りしてかけまわり、疲弊して動きの鈍くなったヤタガラス隊員を相手に大暴れする――。
「「うおおおっ、紗雨ちゃんに活躍を見せるぞー」」
「「出雲君、ボーナス期待してるわよ!」」
「「「冒険者パーティ〝W・A〟の底力を見せてやる!!」」」
そして活躍は実力者ばかりにとどまらず、焔学園二年一組の一般生徒達もまた、鴉天狗達を相手におおいに気を吐いていた。
「我らが祖霊よ。ヒグマの剛力を我らに与えたまえ!」
ヤタガラスの隊員達は、強化の鬼術で応戦するも――。
「筋力が増しても、視野が広がるわけじゃないでしょう!」
俊敏な少年、関中利雄が率いる身軽な〝戦士〟や〝斥候〟が、ヒグマの力でパワーアップしたヤタガラスの前衛部隊に対し、フェイントを織り交ぜた飛び道具の狙撃で手傷を負わせ――。
「鷹の目をっ」
「視野を広げた相手もいるが、そいつは面で制圧するまでよ」
神経質そうな少年、羅生正之が中心となった鬼術士部隊は、地面から氷の足罠や植物の蔦を使って足を狙い――。
「キツネの法力をっ」
「お前達の強化鬼術は、一つの効能に集中しているみたいだからな。どの班がどの強化を使うのか覚えていれば対応できる。能力向上対策は、遥花先生の授業でみっちり学んだんだよっ」
モヒカンの雄々しい林魚旋斧ら重武装の戦士隊が、術を使おうとする鴉天狗を殴りつけて妨害する。
個々の戦力では劣るものの、力には技、技には術、術には力をぶつけることで、あたかもジャンケンのような逆転劇が実現していた。
「ただ一回の交戦でこちらの攻略法を見抜いたと言うのか。冒険者パーティ〝W・A〟は、異界迷宮の怪物退治を主任務とする我々、ヤタガラスと違って、対人戦闘に特化している。これは気を引き締めないと負けるっ」
あとがき
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