第322話 カシナート再び
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額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、その一行は、建速紗雨が作った水の壁で天狗たちの視界を遮っている間に、全員が避難可能な穴を掘り、天井部を矢上遥花のリボンと、柳心紺の砂状兵器で覆うことで、竜巻の影響を最小限に抑えていた。
「さあ反撃だ!」
「やってやるサメーっ」
「「うおおおっ。ぶっ飛ばしてやらあ」」
桃太が拳をつきあげるや、修道服に似たサメの着ぐるみをかぶる銀髪碧眼の少女、建速紗雨をはじめ、焔学園二年一組の生徒たちもまた閧の声をあげた。
「まさかっ。ニセ勇者め、あの一瞬で防御策を講じたというのか!?」
前髪の長い細身の鴉天狗、葉桜千隼は、疲労感をにじませる部下を庇って前に出たものの、声が震えていた。
「紗雨ちゃんが、よくサメ映画を見せてくれたからね。土の中を泳げばいいってピンと来たのさ!」
「「なるほど、出雲もたまには良いこと考えつくじゃねえかっ」」
「相棒も皆も、サメ子に毒されているぞ。サメが泳ぐのは海水だあっ!」
紗雨の幼馴染でもある、金髪の長身少年、五馬乂が冷静になれとばかりにツッコミを入れたが、クラスメイト達の興奮はおさまらず、桃太の胸で燃える炎もまたより激しさをますばかりだった。
「俺たち冒険者パーティ〝W・A〟は、八大勇者パーティの暴走を止めるため、日本と異界のあり様を変えるためにクマ国へ向かうんだ。その為には常識に縛られてはいられないんだ。この竜巻は利用させてもらうぞ。我流・螺子回転刃!」
桃太は、鴉天狗達が生み出したものの、勢いを失いつつある竜巻に手のひらを添えて衝撃を操作し、半球状の反射結界として復活させた。
「「こ、これはっ。衝撃の結界で包囲されているぞ!?」」
今、桃太の元には、かつてクマ国の代表、カムロも製作に協力したという衝撃反射を強化する手袋、〝日緋色孔雀〟がないために、反射結界は四鳴啓介や、テロリスト団体〝S・E・I〟と戦った時よりも小規模で、一〇名を閉じ込めるのがやっとだったが――。
「まさか我々と同じことをするつもりか?」
「せ、せめて辞世の句を詠ませてくれ!」
それでも対象となった前衛の鴉天狗達は、己がミキサーやフードプロセッサーの中にいる、ミートボールの具材になっていることを自覚したらしい。
「バカを言わないでくれ。俺も殺しはしないさ。でも痛いのは覚悟してくれよ」
「「ぎゃああ」」
桃太が反射結界の中へ、プロペラ状に変化させた衝撃刃を伸ばして回転させるや、中にいる黒い翼の生えた鳥人たちは蚊取り線香に燻された虫の如く失神して墜落した。
「遥花先生、彼らは俺達を殺さないよう戦ってくれました。だから、彼らもまた死なないように治療をお願いします」
「任せてください。皆さん、桃太くんはああ言いましたが、交戦責任はお姉さん、いいえ先生が取ります。殺さないよう殺されないよう、治癒しますので、全力で戦ってください。クマ国に向かう為、進みましょう!」
焔学園二年一組の担当教師である遥花は、服の袖から伸ばしたリボンでヤタガラスの隊員達を治療しながらも、総攻撃を宣言。
桃太のカシナートを皮切りに、冒険者パーティ〝W・A〟による反撃が始まった。
「ハハハ、矢上遥花よ。責任をとると口にしたな。言質はとったぞ。妾はカムロに何度もボコられて、クマ国民には恨み骨髄じゃあ」
あとがき
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