第321話 死中に活を求めて
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「みんな、もうちょっとの辛抱だ。今、紗雨ちゃんが水の盾で防御してくれる」
「サメーっ、桃太おにーさんっ。水の防壁は作ったけど、竜巻が三つに増えてるサメー!?」
「おいおいマジかよ!?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、異世界クマ国への案内人となった金髪少年、五馬乂が冒険者育成学校、焔学園二年一組の生徒達を集めている間に……。
クマ国代表の養女である、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨はビルのごとき高さの噴水を円状に生み出して、生徒たちを護るための結界を作り上げた。
しかし、天狗達もまた羽団扇を振り続けたことで、最初は一つだった巨大な竜巻が、三つに増えたではないか?
「これぞ我らの部隊奥義、その真価! 〝三角暴風殺〟!」
前髪の長い細身の鴉天狗、葉桜千隼が高らかに声をあげる。
異世界クマ国の防諜部隊ヤタガラスは、異界迷宮カクリヨの第九階層〝木の子の谷〟の〝転移門〟一帯を、三角状に配置した竜巻で包囲してしまった。
「オイオイオイ……」
「死ぬわ、おれら……」
「殺しませんよ。我々の術、〝三角暴風殺〟は、酸や雷を併用することで地球の軍隊をも制圧できると自負しています。しかし、今回は非殺傷の縛りを設けていますので、〝死ぬほど痛い〟程度におさまることをご承知ください」
千隼の宣言は、ホラ話のように聞こえるが冗談でもなんでもなく、三つの竜巻は、木々の紅く染まった葉を吹き飛ばし、枝を折り、しまいには根こそぎ引っこ抜きながら、包囲網の内部を塗りつぶす。
「「GAAAAAA!?」」
桃太達が水柱の内側から上空をうかがうと、人間よりも大きい鹿やトンボといったモンスターが、あわれ暴風に吹き飛ばされて、舞い上げられてゆくのが見えた。
「「お、おたすけえええっ」」
桃太と冒険者パーティ〝W・A〟の団員達は、紗雨が作った水壁の内側から抵抗を続けたものの、三つの竜巻によってゆっくりとすり潰され、やがて竜巻が一つに重なるころには、悲鳴すらあげることも叶わなくなった。
「意外に時間がかかりましたが、終わり良ければ全て良し。これにて、制圧完了です」
やがて竜巻の勢いが弱まった頃。葉桜千隼ら、法衣に身を包んだ天狗は、倒れ伏す桃太達を想定していた。
「「……」」
しかし、竜巻の中心地には気絶したモンスターこそ並んでいたものの、人影は全くなかった。
「バカな。人を殺さぬよう細心の注意を払ったのだぞ!」
「いったい、どこへ消えた?」
「転移術か、それとも透明にする術でも使ったか?」
天狗達は右往左往するも、千隼だけは、すぐさまカラクリに勘づいた。
「いいや、違う。紗雨姫達が時間を稼いだのは、地中に隠れるためだ!」
「その通り!」
次の瞬間。
竜巻によって積み重なった土が吹き飛び、赤いリボンと青い砂で作られたドーム状の屋根があらわになる。
「部隊奥義、〝三角暴風殺〟はとんでもない威力だったが、こちらにも遥花先生の〝夜叉の羽衣〟、柳さんの〝砂丘〟の合わせ技がある」
桃太一行は、紗雨が作った水の壁で天狗たちの視界を遮っている間に、偽の悲鳴をあげつつ全員が避難可能な穴を掘り、天井部を矢上遥花のリボンと、柳心紺の砂状兵器で覆うことで、竜巻の影響を最小限に抑えていた。
「さあ反撃だ!」
あとがき
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