第320話 ヤタガラスの部隊奥義
320
「これはまずい、とんでもない大技が来るぞ。皆、地面すれすれまで背を低くして、一箇所に固まってくれ。紗雨ちゃんは水を使って時間を稼いで。遥花先生と柳さんは、ゴニョゴニョな防御をお願い。死中に活を求めるぞ」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太、冒険者パーティ〝W・A〟の仲間達に指示を出すも――。
「偽りの勇者、出雲桃太とその一党よ。よく聞こえませんでしたが、無駄な抵抗は諦めて降伏することをオススメします。我ら防諜部隊ヤタガラスこそは、クマ国を守る要。地球の勇者パーティにも遅れはとりません。ましてや名ばかりの鬼畜外道などには!」
「誤解だああっ」
桃太の対策や抗議を気にも留めず、前髪の長い線の細い鴉天狗、葉桜千隼が率いる異世界クマ国の防諜部隊ヤタガラスの隊員は、羽団扇を仰ぐことで竜巻を完成させる。
「これぞ我らの部隊奥義、〝初太刀竜巻殺〟!」
「「GOOO!?」」
膨大な風の渦は、異界迷宮カクリヨの第九階層、〝木の子の谷〟の秋めいて赤く色付く木々を薙ぎ倒し、角が何本もある巨大な鹿や二足歩行するキノコといったモンスターすらも一飲みにして、際限なく拡大してゆく。
「な、何じゃこりゃぁああ!」
「こんな鬼術は、見たことがないわ!?」
前衛をつとめるモヒカンの雄々しい林魚旋斧ら、焔学園二年一組の研修生達も直撃してはたまらないと、桃太の指示通りに背を低くして、半ば這うようにして後退を始めた。
「相手に翼があるから活躍できると思ったのに、これじゃあとても飛べませんわ。鬼術・十指光閃!」
赤い髪を二つのお団子状にまとめた少女、六辻詠がジャージに包まれた豊かな胸をばるんばるん揺らしながら、両手を広げて五本の指からレーザーを放つも、竜巻によって方向を歪められ、地面に穴を空けるに留まった。
「詠様に続けっ。手柄をあげて出世のチャンスだ!」
「羅生サン。代表は詠サンじゃやくて、出雲サンですからねっ。前衛を援護します」
羅生正之ら後衛が氷矢や土弾といった鬼術で鴉天狗達を狙い、関中利雄ら中衛も、視覚をさえぎる煙玉などで撤退支援を試みたものの、巨大竜巻の前に儚く消えた。
「これがクマ国の防諜部隊ヤタガラスっ。初めて交戦しましたが、恐るべき強さですね」
冒険者パーティ〝W・A〟の中核をなす焔学園二年一組の担任教師である矢上遥花は、栗色の髪を結ぶ赤いリボンと、スーツを飾るフリルを伸ばして生徒達を回収し――。
「遥花先生、感心してる場合じゃないサメ。強いのに騙されちゃう防諜部隊とか、本末転倒なんだサメー」
クマ国代表の養女たる、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨が祖国のありようを嘆きつつも、防御結界の準備を整え――。
「クソジジイ、カムロがいつになっても引退できない理由がこれだよなあ。荒事担当の部署が、中世の侍もドン引きな猪武者なんだよ」
「そうは言うけど、乂のやり方もけっこう強引だからねっ」
案内人の金髪少年、五馬乂と、桃太が手分けして防衛の準備にとりかかる――。
「みんな、もうちょっとの辛抱だ。今、紗雨ちゃんが水の盾で防御してくれる」
「サメーっ、桃太おにーさんっ。水の防壁は作ったけど、竜巻が三つに増えてるサメー!?」
「おいおいマジかよ!?」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)