第319話 鴉天狗部隊の脅威
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「まずは頭を抑える。〝我流・長巻〟」
「やってみろ。我が〝鬼神具・蛇切丸〟にかけても、地球のエセ勇者には負けないっ」
西暦二〇X二年八月一二日。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太の手から伸びた衝撃波の刃と、クマ国の防諜組織ヤタガラスの特務部隊長、葉桜千隼が振るう鞭のごとき蛇腹剣が絡み合って嚆矢のごとき甲高い音を立て、冒険者パーティ〝W・A〟の初陣が始まった。
「うおおお、紗雨ちゃんに切り込み隊の強さを見せてやろうぜ」
「我らが祖霊よ。ヒグマの剛力を我らに与えたまえ!」
モヒカンが雄々しい林魚旋斧ら、〝戦士〟達は、勇猛果敢に積極的に攻め込んだものの、鴉天狗達が人間離れした力で振るう錫杖に弾かれ――。
「近接戦がダメなら、弓矢ならどうだ?」
「我らが祖霊よ。鷹の目を我らに宿らせよ」
関中利雄ら、軽武装の〝戦士〟と〝斥候〟ら遊撃部隊が狙撃するも、あっさりと回避され――。
「鬼術士隊の本懐を見せるは今だっ。山に火をつけないよう気をつけろよ。ありったけの氷と土の弾丸をぶつけてやれ!」
「我らが祖霊よ。キツネの法力を我らに顕せ」
羅生正之ら〝黒鬼術士〟が鬼術で弾幕を張るも、天狗達が羽団扇でひとふきするや風で散らされた――。
「「「案内役の乂さん。いくらなんでも、こいつら強すぎるだろ!」」」
「ヤタガラスはクマ国の防諜部隊だ。勇者パーティの精鋭くらいにはやる。元勇者パーティ〝S・E・I〟の親衛隊〝鋼騎士〟を相手にしていると思って欲しいぜ」
クマ国への案内人、金髪ストレートの長身少年、五馬乂がそう言って鼓舞したもの、戦況はギガース戦よりも更に不利だった。
桃太をはじめ〝W・A〟の団員が千隼らヤタガラスの前衛二〇人に手こずっているうちに、術師らしき後衛三〇人が上空に飛び上がり、なにやら呪文を唱えて印を結びながら準備を始めたからだ。
「紗雨姫。乂様。申し訳ありませんが、カムロ様からたとえ貴方方であろうとも、怪しいところが見られた場合は、戦闘不能にするよう仰せつかっています。ご容赦ください」
桃太と交戦していた千隼は、背の黒い鴉羽根をはばたかせて上空へ離脱。クマ国に縁深い紗雨と乂に向かって、すまなさそうにノックアウト予告をした。
「お、おう。クソジジイなら、そう言うだろうから気にするな」
「千隼さんは命令されているから仕方ないけど、ジイチャンは、あとでサメアッパー連打サメーっ!?」
乂と、修道服を連想させる青いサメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨が答えた直後、大音響が鳴り響き、空気が震えるような衝撃が走った。
天狗達が羽団扇を仰ぐと、風が渦を巻き、竜巻が引き起こされたのだ。
「「AAAA!?」」
不運にも攻防に巻き込まれた、異界迷宮カクリヨの第九階層〝木の子の谷〟を行き交うモンスターは、耳をつんざく風音を聞いて逃亡をはじめるがすでに遅く、重力を無視するかのように地面から空中へと浮き上がった。
「これはまずい、とんでもない大技が来るぞ。皆、地面すれすれまで背を低くして、一箇所に固まってくれ。紗雨ちゃんは水を使って時間を稼いで。遥花先生と柳さんは、ゴニョゴニョな防御をお願い。死中に活を求めるぞ」
あとがき
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