第318話 冒険者パーティ〝W・A〟の初陣
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「ちょ、ま、やってない。まだ何もやっていない」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、ぶんぶんと首を横に振って、身に覚えがないと、疑惑を晴らそうとしたが……。
「コケーっ。お人好しそうな娘ってわたくしのこと? 英雄、色を好むと言いますが、出雲さんはなかなかお盛んですわね」
「まだ、ということはやる気はあるのだろう? 陰険そうな悪魔っ子という表現は気に食わんが、出雲桃太、妾は青姦でも乱交パーティでもいっこうに構わんぞ!」
赤い髪を二つのお団子でまとめたグラマラスな少女、六辻詠と、昆布のように艶のない黒髪の少女、伊吹賈南が火に油を注ぐがごとき問題発言で応じたため、鴉天狗らは色めきたった。
「怪し過ぎるっ。やはり噂に間違いなし!」
「紗雨姫、そんな男から離れてこちらへお逃げください」
「だから誤解だってば!」
そんな桃太と鴉天狗達のてんやわんやに対し……。
「同感だ! 出雲をこらしめてください」
「これはこれで愉快だから見守ろうっと」
桃太が代表として率いる冒険者パーティ〝W・A〟の団員こと、焔学園二年一組の級友達は、ノリノリで囃したてる始末だ。
「み、味方がいなーい。乂、こうなったらいっそ捕まっておく? カムロさんの元にいったら悪いようにならないだろうし」
桃太はクマ国への案内役である、金髪少年、五馬乂にそう提案したが……。
「いや、相棒。あの葉桜千隼ら、ヤタガラスの連中を捕虜にして、ヨシノの里に乗り込むぞ」
「おいおい、力づくの解決にもほどがあるだろ?」
「カムロがクマ国の国境を警戒し始めたのは事実だし、コピー能力者が暗躍しているという通達もおそらく本物だ。
だから、〝八大勇者パーティの工作員がクマ国に入り込んで〟、葉桜達におかしな命令を発した可能性がある。もしそうならとんでもないトラブルだぜ!」
乂のただならぬ様子を見て、桃太はなるほどと納得した。
「みんな、責任は俺が取る。戦闘準備をお願い」
「「ブーブー。なっとくいきませーん」」
残念ながら、この窮地においてもクラスメイト達のやる気は上がらなかったが……。
「意地悪しないで、桃太おにーさんを手伝って欲しいサメー。葉桜さん達は、情報リテラシーがめちゃくちゃサメーっ」
「「うおおおっ、紗雨ちゃん万歳! 紗雨ちゃんに続け! 出雲は感謝しろよ!」」
クマ国代表の娘である、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨が口添えしてくれたことで、爆発的にやる気が復活した。
「まるでドリルみたいな手のひら返し。もう紗雨ちゃんがリーダーの方がいいんじゃないか?」
「ふふふ。大変でしょ、パーティ代表って」
「よくわかったよ、リンさん」
桃太は、元勇者パーティ〝C・H・O〟代表の三縞凛音が化けた三毛猫のいたずらっぽい問いかけに、片目をつむってうなずき返すと、敵部隊長の葉桜千隼に向かって切り込んだ。
「まずは頭を抑える。我流・長巻!」
「やってみろ。我が鬼神具。蛇切丸にかけても、地球のエセ勇者には負けないっ」
桃太の手から伸びた衝撃波の刃と、千隼が振るう蛇腹剣が絡み合って、戦の始まりを告げる嚆矢のごとき甲高い音を立て、〝W・A〟の初陣が始まった。
あとがき
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