第317話 桃太の不覚!?
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「さ、紗雨姫ではないですか? 囚われているはずの紗雨姫がなぜここに? 自力で脱出されたのですね!」
「そもそも捕まってなんていないサメー。だまされないで欲しいサメー」
クマ国代表、カムロの養女である銀髪碧眼の少女、建速紗雨は修道服めいた青いサメの着ぐるみから伸びる、ヒレのような袖をぶんぶん振って抗議するも……。
「その額の十字傷っ、貴様が悪名高き出雲桃太かっ。紗雨姫に命を救われ、カムロ様に弟子入りを許されながら、クマ国の秘密と宝を盗んで逃げ出しただけでも罪深いのに、紗雨姫を弄ぶにとどまらず、洗脳までしたのか? いくら紗雨姫が可愛らしいからといって、そうまでして結婚を強いるなんて恥ずかしいと思わないのか?」
「してない。そんなことしてないっ。秘密や宝なんて知らないし、洗脳なんてとんでもないっ。人聞きの悪いことを言わないでくれ!」
葉桜千隼ら、天狗達が、出雲桃太へ向ける敵意は強まるばかりだった。
「いいや、貴様が金にものをいわせて美姫を集め、草の根一本も残さぬ略奪大好き男で、死体をもてあそぶヘンタイという悪名は、異世界であるクマ国にまで鳴り響いているぞ!」
「くっそ、修行の途中でカムロさんの屋敷から飛び出したのは事実だけど、話におひれとせびれが付きすぎだ。どんな悪名のミックスだよ!?」
桃太は何が何だかわからないと、紅葉に染まる異界迷宮カクリヨの第九階層〝木の子の谷〟で頭を抱えるが――。
「なぜ桃太くんに四鳴家と六辻家と七罪家の罪がなすりつけられているの?」
そんな桃太を庇うように、焔学園二年一組の担任教師である矢上遥花がそっと背後に寄り添った。
彼女は自らの〝鬼神具〟である、栗色の髪を結ぶ赤いリボンに手を触れ、スーツを彩るフリルをゆらめかせながら臨戦態勢に入った。
「遠亜っち、おかしくない? なーんかピンポイントで嘘が広まってるよ。風説の流布にしても、都市一つに戦争を決意させるのは、やりすぎじゃない?」
更にサイドポニーの目立つ少女、柳心紺は、身につけた青紫色の蒸気鎧に火を入れつつ、マント状に固めた砂状の〝鬼神具〟、〝砂丘〟をゆらりとはためかせて、桃太の右手に立ち――。
「そうだね、心紺ちゃん。デマカセのベースになったのは、〝九郎判官義経と師匠である鞍馬天狗、その娘に関する虎の巻の逸話〟かな。嘘八百に八大勇者パーティの悪事というヨソの事実を混ぜ込んで、出雲君に悪名を押し付けようとしているみたい」
瓶底メガネをかけた白衣の少女、祖平遠亜も蘭が描かれた鞄を構えつつ、前に進み出て桃太の左手を握りしめる。
「イッツソーハード! 祖平の言う通りだとすれば、コピー能力者とやらが、クマ国に入り込んで印象操作のために、デタラメを流しているんじゃないか?」
荒事に慣れた乂は、遠亜の考察もあって異常の原因に勘付いたものの――。
「なにがデタラメですか? 現に出雲桃太は紗雨姫だけにとどまらず
〝色っぽい大人の女性〟に、
〝 活発そうな体育会系娘〟、
〝 大人しそうな眼鏡少女〟、
〝お人好しそうな娘〟、
〝 陰険そうな悪魔っ子〟、
と、大勢の娘をはべらせているではないですか? 我らクマ国の秩序を守るヤタガラス隊員として、このような悪漢は見過ごせません!」
残念ながら、桃太の周囲は誤解されても不思議のない状況だった。
「あ、相棒、なにやってんだー!?」
「ちょ、ま、やってない。まだ何もやっていない」
あとがき
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