第316話 防諜部隊ヤタガラスの誤解?
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西暦二〇X二年八月一二日午前。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、冒険者パーティ〝W・A〟に参加した焔学園二年一組のクラスメイトと共に、日本政府から預かった親書を異世界クマ国に届けるべく、異界迷宮カクリヨの第九階層、〝木の子の谷〟へ踏み入ったのだが――。
クマ国の軍勢らしき正体不明の鴉天狗部隊から攻撃を受けてしまう。
「おいこれはいったいどういうことだ? クマ国の人間がなぜ地球の人間を襲う? モンスターと間違えたなんて言い訳はきかないぜ!」
「……聞きたいのはこちらだ。命が惜しければ、正直に答えろ。貴殿達は、〝前進同盟〟の参加者か?」
クマ国への案内人を務める金髪ストレートの少年、五馬乂が天狗達に呼びかけると、桃太とにらみあっていたリーダーらしき細身の優男が身を翻して、彼の前に降り立った。
「オレは五馬乂、クマ国代表カムロの命令で、地球の冒険者パーティ〝W・A〟と共にヨシノの里を目指している。クマ国の反政府組織である〝前進同盟〟を探しているのなら、お門違いだ」
乂が天狗達に呼びかけると、リーダーらしき前髪を伸ばした細身の優男は、わずかに緊張を緩ませた。
「私は葉桜千隼。クマ国の防諜部隊ヤタガラスの第一一三特務小隊を率いています。乂様のお名前もお顔も銀板写真で存じ上げています。しかし、現在は緊急事態。カムロ様の通達により、コピー能力者が暗躍していることが明らかになっているのです。申し訳ありませんが、この場で全員を拘束させていただきます」
が、葉桜千隼が告げた言葉は、よりにもよって逮捕宣言だった。
「コピー能力者が、クマ国に潜入している? しかもカムロのジジイが連絡を回しただって!?」
乂の赤い瞳に一瞬、凶暴な光が宿る。
彼は千隼からつきつけられた鞭のような剣から視線をそらすことなく、素肌の上に直接羽織った革ジャンパーに包まれた腕を、太腿の付け根から裾まで広いドカンめいたボトム……、その腰ベルトに差した赤茶けた短刀へと伸ばしていた。
「待つんだ、乂!」
桃太は、相棒の喧嘩っ早さを誰よりもよく知っていたため、とっさに声をあげて制した。
「わかってるぜ、相棒。まずは話し合いだな。葉桜さんよ、理屈はわかるが横暴すぎるぜ。異界迷宮カクリヨは、クマ国の外だ。カムロか里長が緊急事態と判断し、特殊な命令でもくださない限り、ヤタガラスの活動許可はおりないはすだ」
乂の問いかけに対する千隼の返答は、とんでもないものだった。
「クマ国外の活動許可ならおりています! ヨシノの里長、猪笹たたら様が……。
〝心優しき紗雨姫が、極悪非道の出雲桃太なる地球の勇者の命を救ったところ、恩を仇で返されてカムロ様の元から地球へ連れ去られ、ハレンチな辱めを受けて婚姻を無理強いされている〟
……という極秘情報を得たのです。
ヨシノの里は、カムロ様から認められた自治権と緊急時における裁量をもって、地球日本との全面対決を決意しました。
我ら第一一三特務小隊は先遣隊として、紗雨姫救出のために派遣されたのです!」
「……な、な、なにそれっ!?」
「なんでそうなったサメー!?」
桃太と、集団の中に埋もれていた青いサメの着ぐるみをかぶる少女、建速紗雨があまりな言い分にツッコミを入れたのも無理はないだろう。
「さ、紗雨姫ではないですか? 囚われているはずの紗雨姫がなぜここに? 自力で脱出されたのですね!」
あとがき
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