第315話 まさかの遭遇戦
315
西暦二〇X二年八月一二日早朝。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太達、冒険者パーティ〝W・A〟は、異界迷宮カクリヨの第九階層〝木の子の谷〟に踏み入った。
「おおっ、キノコがおおい」
「赤に白に黄色、紫に青。絶景だなあ」
「あっちを見ろよ、まるで塔や高層ビルみたいなキノコが生えているぞ」
〝W・A〟の中核である、焔学園二年一組の研修生達はあたかも花園のように谷を埋め尽くす、さまざまなキノコを見て、興奮のあまり飛び上がった。
「乂、ちょっと見てきていいかい?」
「サメー、おろさないでサメー」
桃太もまた後頭部にしがみついていた、修道服めいたサメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨を抱きあげて地上に降ろし、初めて見る異界のキノコを見ようと駆け出した。
が、目的地である異世界クマ国への案内人をつとめる金髪の長身少年、五馬乂と、彼の肩に乗った三毛猫に化けた少女、三縞凛音が彼の首根っこを掴んで止めた。
「よせよせ、相棒。第九階層だけあって、角が何本も生えた鹿や、砲弾みたいに突進力があるイノシシ、恐竜みたいに大きなトンボと、危険なモンスターが盛りだくさんだ」
「にゃんっ。中でも超級カエンタケは、食べたら即死するほど毒性が強いキノコで、足が生えて動く上に触れると皮膚がただれる劇物よ。安易にキノコに近づいては危ないわ」
「大丈夫だよ。念の為、ソナーで警戒するから。……みんな、気をつけてっ。空から何かくる!?」
〝斥候〟である桃太は気配に敏感であり、それゆえ索敵技を放つ前に、谷の上空から自分たちを取り囲んでいる殺気に勘付いた。
黒いカラスのような翼が生え、錫杖で武装して法衣を身にまとった五〇人もの集団が桃太一行を目指して突っ込んできたのだ。
「地球人だな。動くな」
「我流・直刀!」
正体不明な集団の先頭を飛ぶリーダーらしき鴉天狗が振り下ろす鞭のような剣と、桃太が衝撃をこめた右足の蹴りが交差して火花を散らす。
「乂、上下左右から、四人来るわよ」
「相棒、残りは任せろ。袈裟斬りチョップ。からぁのお、マシンガン・チョップ!」
「「うわあああっ」」
乂もまた、風をまとった手刀で薙ぐようにして一人を倒し、続く乱れ打ちで二人を昏倒させる。
「最後は、ネックハンギング・ボムだ!」
「ぐええっ」
「ニャー(セグンダさんが相手じゃないと、短刀は使わずに素手のプロレス技なのね)」
乂は懐に入り込もうとした最後の一人の首を吊りあげてから投げ飛ばして、先鋒四人をまとめてノックアウトした。
「総員、防御態勢を取りつつ停止。桃太くん、乂君、まだ戦闘は避けてください」
「わかりました、遥花先生」
「別に気にしなくていいと思うぜ」
桃太と乂は、栗色の髪を赤いリボンで結び、フリルのついたスーツを着る二年一組の担任教師、矢上遥花の制止を聞いて、戦闘を中止した。
どうやら、冒険者パーティ〝W・A〟は、第八階層と第九階層を繋ぐ〝転移門〟から出るなり、クマ国の軍勢らしき天狗に包囲されてしまったようだ。
「おいこれはいったいどういうことだ? クマ国の人間がなぜ地球の人間を襲う? モンスターと間違えたなんて言い訳はきかないぜ!」
あとがき
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