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第30話 異世界大戦の危機

30


 出雲いずも桃太とうたは、日本政府の外交官だという、奥羽おうう以遠もちとおの、従来の常識を覆す発言に愕然がくぜんとした。


「以遠さん、半世紀以上前に軍事国家と周辺国が全滅したのは、モンスターが原因じゃないんですか? ――〝鬼の力〟――だなんて、そのせいで殺し合ったなんて、聞いていない!」

「出雲君、明かせるはずもないだろう。過去に使われた危険な物質、フロンガスやアスベストと同じだよ。私たち人類は、〝鬼の力〟が無ければ異界迷宮カクリヨの怪物と戦えないんだから」


 桃太は以遠の理屈を否定しようとして、出来なかった。


「我が国を含めて、西側だった国々も馬鹿じゃない。東側の国々が自滅したことも、その原因が〝鬼の力〟にあることも勘づいていた。でも怪物との戦いに敗れたという作り話の方が、遺族の感情を鑑みても、おさまりが良いじゃないか?」


 それは優しい嘘かも知れないが、危険な嘘だ。


「東側の国々が滅んだ後は、三縞みしま代表みたいに、暴走する人はいなかったんですか?」

「居たとも。過去に有名冒険者パーティ〝G・O (グレート・オーキス)〟らが壊滅した理由は、〝鬼の力〟で暴走した出資者による粛清だった」


 桃太は親友、くれ陸喜りくきの最期を思い出し、強く拳を握りしめた。


獅子央ししおうほむらがクマ国を見つけた時、世界中の国が震撼したんだ。……カムロ様は、〝鬼の力〟と、その結晶である〝赤い霧〟と〝黒い雪〟の危険性について、詳細なレポートを託してくれた」


 以遠は、浅く息を継いで言葉を続けた。


「〝赤い霧〟と〝黒い雪〟は人類文明にとって危険な存在だ。大量に集まれば、精密機械の動作を妨害したり、人間を変質させたり、今の東ユーラシア大陸のように怪物を生み出してしまう」

「俺達が探索していた、異界迷宮カクリヨ内部のようにですか?」


 桃太の問いに、以遠は頷いた。


「そうだ。レポートを読んだ国の中には、クマ国による地球侵略ではないかと疑う指導者までいた。二つの世界を繋いだのは、地球側の軍事国家だというのにね」

「……滅んだ国にとやかく言う気はないが、くだらん爆弾で異界迷宮カクリヨを作られたせいで、犠牲が出たのはクマ国も同じだ。そもそも未開地なら近所にありふれているのに、どうして危険を冒して地球に行かなきゃならない?」


 桃太は、地球とクマ国の間に戦争が生じなかったことにホッと胸を撫で下ろした。

 考えてみれば、二つの世界を繋ぐ廻廊、異界迷宮を行き来するのは極めて危険だ。

 今、遠隔〝通神つうしん〟会議を実現している、一〇〇インチのディスプレイモニターを運ぶのも、きっと命懸けだったろう。


「出雲君、わかってくれないか? こういった前提や根回しもないままに、〝鬼の力〟の真相やクマ国の存在を明かせばどうなると思う? 

 ――地球で冒険者を排斥はいせきする、魔女狩りが起きるかも知れない。

 ――異界迷宮を巡る産業が、壊滅するかも知れない。

 ――最悪の場合、東ユーラシアが滅亡した原因はクマ国にあると誤解されて、戦争になるかも知れない。

 そんな風に、世論を暴発させるにはいかないだろう!」

「知れない。なんてあいまいな理由で、世界中に嘘をつくんですか?」

「いつまでもってわけじゃない。音楽や舞踏ダンスを利用した冒険者のケアも、ゆっくりだが進んでいる。いずれは〝鬼の力〟やクマ国についても、国連なりの相応ふさわしい場で公表されるだろう。無理にことを急いで、惑星間大戦なんて結末だけは、日本国も他の国々も望んでいないだけなんだ」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鬼の力に依存しているけれど、鬼の力は暴走の危険がある上に、霧や雪にも関係していると。 この世界の地球は、割と薄氷の上に成り立っていたのですね。 こういう世界の裏側では危機的状況だった話は大好…
[一言] >異界迷宮を巡る産業が、壊滅するかも知れない 人間、一度手に入れたものを手放すのは難しいですよね(よりいい物との交換とかならともかく)
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