第314話 第九階層〝木の子の谷〟へ
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「ここにまだ呉陸羽って子も加わるんだろ? いったい何角関係だよ。相棒ったら、カムロのジジイに弟子入りなんてするから、悪いところまで似ちまったぜ」
「にゃにゃん! 乂、桃太君の女性関係は彼の責任よ? カムロさん、というか、初代スサノオに昔、複数人の奥さんがいたのは事実みたいだけど、理不尽ないいがかりじゃないかしら」
「リンは付き合いが浅いから、見えていないんだぜ。一千年前にいた初代スサノオとは関係なしに、あのクソジジイは昔から結構な女たらしだぞっ。相棒もいつの間にやら染まっちまった……!」
冒険者パーティ〝W・A〟の代表である、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太の相棒である、金髪の長身少年、五馬乂と、彼の肩に腰掛ける三毛猫に化けた少女、三縞凛音も、桃太を巡る女の子達の華やかな状況を見て、口を挟まずにはいられなかったようだ。
「そうそう、女たらしでしょう! 乂さんも言ってくださいよ」
「ねねっ。リンちゃん可愛い、触らせてください」
「お二人は交際されているんですか?」
クマ国への水先案内人を務める二人、見かけは一人と一匹の様子に、桃太をはやしたてる焔学園二年一組のクラスメイト達は共通の話題で盛り上がれると踏んだのだろう、やいのやいのと黄色い声をあげている。
(ああ良かった。柳さん、祖平さん、それに林魚も、元勇者パーティ〝C・H・O〟の代表だった彼女と行動を共にすることを飲み込んでくれたし、乂だけでなく、凛音さんもクラスに馴染んでいる。これならいつかは、真実を明かせるかなあ)
一方、魅力的な女の子達に囲まれて赤面していた桃太だったが、勇者パーティの代表として孤独な半生を送った乂と凛音がクラスに溶け込んでいることを知って、内心ホッとしていた。
「……話に夢中になっているうちに、目的の洞窟が見えたわ。あの中にある〝転移門〟をくぐれば、異世界クマ国、ヨシノの里に繋がる、第九階層〝木の子の谷〟よ」
「へえ、後一階層なんだね! あと少しでクマ国かあ。カムロさん達に会うのが楽しみだ」
幸いなことに、乂と凛音の異界迷宮カクリヨの案内は適切であり、第八階層の〝残火の洞窟〟まで一切の戦闘やトラブルに巻き込まれることがなかった。
だから、桃太は、師匠であるカムロとの再会が近いと、無邪気に心を躍らせていたし――。
「紗雨ちゃん、クマ国ってどんな国なの?」
「地球と同じくらい大きいサメ。でも人口はずっとずっと少なくて、機関車が走る鉄道と、カクリヨの中にあるような〝転移門〟を使って、里と里を繋げているんだサメー」
桃太の後頭部にしがみついた、クマ国代表カムロの養女であり、修道服めいたサメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨も、地球日本の冒険者パーティ〝W・A〟の団員達も、いよいよ異世界を訪れるのだと、湧き上がっていた。
「へええっ、地球規模の統一国家なんだ、スゴイね」
「むふふー。クマの里には、山も海もあるし、温泉の流れる川があったりするんだサメー」
「じゃあ、ついたら泳ぎたい放題!」
「ナンパできるかも!」
「ナンパされちゃうかも!」
「コケーっ、わたくしの美しさで魅了してみせますわ」
「「詠さんはまず生活から改善しろ!?」」
西暦二〇X二年八月一二日早朝。
桃太達は、異界迷宮カクリヨの第九階層〝木の子の谷〟に踏み入った。
あとがき
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