第312話 六辻詠の珍道中
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「〝木の子の谷〟に一番近い里はヨシノだったサメ? クマの里へ向かうのに、ずいぶん遠回りするサメ?」
「アイキャントヘルプイット(どうしようもない)。過激な反政府団体の〝前進同盟〟が暴れ回っているからな。大昔に江戸幕府がやった鎖国政策とか海禁政策みたいに、今やクマ国も地球や異界迷宮カクリヨとは通行制限中なんだぜ。連中の勢力圏なら通れなくもないだろうが、皆もルイ姉、いや、あの〝ビキニアーマーの女剣士セグンダ〟さんと鉢合わせするのは嫌だろ?」
「「絶対に別の道をいこう」」
異世界クマ国への案内人となった赤い瞳の金髪少年、五馬乂の問いかけに、セクシーな恐るべき鬼、セグンダの脅威を思い出した学友達が、即答したのは言うまでもない。
なにせ焔学園二年一組の研修生が全員で戦っても手も足も出ず、五馬碩志や、六辻詠といった〝鬼勇者〟の力を借りて、辛くも退けたのだ。
現状の戦力でぶつかっても、まるで勝てる気がしない。
「シャシャシャ、いのちだいじにってな。若干遠回りになるが、春に〝S・E・I 〟と戦った時、相棒が新しく見つけた〝転移門〟を通れば、多少は日程が短縮できるから、ざっと三〇日。一ヶ月あまりで着くだろうぜ。旅の糧食は、……そういやダイエットでなにかしたんだっけ?」
「「ダイエットでなく、狩猟大会です」」」
乂は女子生徒を中心に大勢の研修生達に詰め寄られ、「おう」と納得した。
「食料は、獲った獲物を瓶詰めにして、〝SAINTS〟から分捕ってきた四次元ポケ……じゃない、〝内部空間操作鞄 (アイテムバッグ)〟に入れておけば足りるだろう。宿代や列車賃も用意したいから、高値で売れるシャクヤクの花から作ったレッドポーションを持っていこう。あとは防寒具も必要だ。地球とクマ国は夏だが、異界迷宮カクリヨの第九階層〝木の子の谷〟は秋の気候だ。薄着じゃ風邪をひいちまうぜ」
「わかりました。狩猟大会で集めた毛皮を配りましょう」
かくして、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、彼のクラスメイトである焔学園二年一組こと、冒険者パーティ〝W・A〟は、五馬乂と、三縞凛音の化けた三毛猫リンに案内されて、異世界クマ国へと旅立った。
しかし、その旅路は容易なものではなかった。
「そういや初めて四鳴のバカボンボンとやりあった時、出雲と柳、祖平が海に落とされたんだよな。こんなゲートを見つけていたのか?」
「あの時は、危なかったよ。あれ、詠さん、大丈夫?」
「コケーっ、すべる、おちる、オタスケー」
「「飛べるんじゃなかったのか!?」」
まずは異界迷宮カクリヨの第六階層シャクヤクの諸島で、赤い髪を二つのお団子状にまとめた、胸とお尻の大きい小柄な少女、六辻詠は崖のロッククライミングに失敗し、危うく海に真っ逆さまになるところを、桃太に手をつかまれ――。
「コケーっ。虎ですわ、食べられるのはイヤですわっ、空を飛んだら流されましたわーっ」
「「ここで飛ぶ必要ないだろ!?」」
「つかまって!」
次に第七階層〝鉱石の荒野〟を行軍中、詠は式鬼ブンオーと同じ八本足の虎に追い回され、乾いた大地に吹く大風に吹き飛ばされたところを、桃太に抱き止められ――。
「コケーっ、服に火がつきましたわっ。このままでは焼き鳥になってしまいますわあああ」
「サメー。水弾発射。危ないところだったサメー」
「もう、詠さんは俺が背負うよ」
「「どうやって生活してきたんだこのニワトリお嬢様!?」」
更に、第八階層〝残火の洞窟〟でガスと火柱がゆらめく石地を歩いていたところ、こんがり焼き上がりかけるところだった。
「出雲桃太。わかりましたわ。貴方がわたくしの新しい執事だったのですね!」
「詠さんっ、それは違うよっ」
あとがき
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