第310話 異世界クマ国への案内人
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額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、勇者パーティ〝N・A・G・Aの代表である、五馬碩志がクマ国の名前を出し、建速紗雨がその国家代表の養女だと明かしたことで、冒険者パーティ〝W・A〟の一員となったクラスメイトがどんな反応をするか緊張した。
「異世界クマ国が、紗雨ちゃんの故郷だって!?」
「つまり、クマ好きの人がクマの着ぐるみを着ている国、いや地方なのか?」
「かわいいっ。行ってみたい!」
しかしながら、彼の心配は杞憂に終わる。
学友達の反応は様々だったが、幸いにも悪いものではなさそうだった。
「つまり、ドレスコードは、熊のコスプレってことか!」
「でも、鮫でも大丈夫なんだよね。どの動物まで受け入れられるの?」
しかしながら、焔学園二年一組の生徒達は紗雨と長く接した経験から、異世界クマ国の文化や風習をとんでもない方向で誤解していた。
「サメーっ、なんでそうなるサメー!?」
「ああ、勘違いするよね」
銀髪碧眼の少女、建速紗雨は修道服に似たサメの着ぐるみの尻尾をバタバタと振って抗議し、日に焼けた少年、五馬碩志は癖のついた前髪に触れて苦笑する。
「目的地である異世界クマ国のクマは、動物の熊ではなく、〝もののすみ〟を意味する〝隈〟が語源だそうですよ。かの国の文化や土地柄について、また旅路や交通機関については、冒険者組合から現地ガイドを頼んであります。それでは、乂兄さんとリンさん、あとはよろしくお願いします」
「オーマイゴッド!?」
この場で一番偉いだろう五馬碩志から唐突に話を振られて、彼の実兄である五馬乂は〝鬼神具〟の影響で深紅に染まった瞳を大きく見開き、金色に変わった長い髪を逆立てて泡を吹いた。
「コケッ!? どこかで見た顔と思ったら、貴方は乂君じゃないですかっ。ラブリーでキュートなアイドル天使、詠お姉さんだよっ。覚えてる?」
「「乂兄さんって、五馬家の先代当主のことか。死んだと聞いていたのに、生きていたんだ」
六辻詠を中心にクラスメイト達は口々に歓声をあげて、乂は誤魔化そうと躍起になった。
「ビークワイエット(しずかに)! オレはこいつの死んだ兄貴と、同姓同名だから〝乂兄さん〟なんて呼ばれているが、オレには日本の国籍もないし、れっきとしたクマ国人だぜ。そもそも堅苦しい五馬家の御曹司が、こんなにクールでアメイジングなファッションをするわけないだろ?」
乂の着る、背中に『漢道』と刺繍した革ジャンを素肌の上に羽織り、太腿の付け根から裾まで広いドカンめいたボトムを身につけ、足には金属輪で補強したライダーブーツは、勇者パーティの当主というイメージからかけ離れていた。
そう、かけ離れてはいたのだが――。
「コケっ? でも、乂君は昔から二河家の瑠衣さんに憧れて変な格好して、五馬家先々代当主の審おじさんとしょっちゅう喧嘩していたじゃないですかあ?」
「「天使というか、むしろニワトリに変身する当主がいるのだから、ちょっと服装が尖っているくらい普通だよなあ」」
「あーっ、聞こえない聞こえない」
「そういうことになっていますので、ボクが彼のことを〝乂兄さん〟と呼んでも気にしないでくださいね」
「そうなんですか(棒)」
「びっくりしちゃう(棒)」
碩志が念を押した時には、クラスメイトの大半が「この金髪少年は、死んだとされる五馬乂だな」と確信していた。
「そして、乂と同じく案内人を務めるネコのリンよ。クマ国はワタシのような知恵をもつ獣や、妖怪みたいな格好の住民がいるから気をつけて」
「「な、なんだって!? 情報量が多い!!」」
あとがき
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