第309話 新パーティ〝W・A〟の目的地
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「これから俺たち〝W・A〟が親書を届けに行くのは、異界迷宮の奥にある〝異世界クマ国〟だ」
「「は?」」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太の突飛な発言に、彼の学友である焔学園二年一組のクラスメイト達は静まり返り、やがてどっと笑い出した。
「おい、出雲。新パーティ代表になったからって、ホラを吹きすぎだ。そんな国があるわけないだろ」
「出雲サン、今はもう夏だ。エイプリルフールには遅いですよ!」
両親が冒険者である羅生正之はもちろん、一般家庭出身の関中利雄など、これまで様々な事件に関わってきた級友達も、異界迷宮カクリヨの奥に、更なる異世界があるなど想像すらできず、大半がジョークだと受け止めてしまったようだ。
「いいえ、皆さん。信じられないかも知れませんが、異世界クマ国は実在します。これまで国交がなかった異世界の国へ、初めて正式な使者として赴くのが、冒険者組合から〝W・A〟にお願いする最初の任務となります」
しかし、勇者パーティ〝N・A・G・Aの代表である、日に焼けた肌の癖毛が目立つ少年、五馬碩志が断言したことで、空気が変わった。
「異世界クマ国って、青い花を焼いて食べた村のことか。おれ、見たことあるわ。解散した勇者パーティー〝C・H・O〟にいた頃、勝手に入って泥棒と誘拐と放火をやらかしたわっ」
「あれは、〝鰐憑鬼ザエボス〟に変身した伏胤がやったことじゃない……って、言いたいけれど、私たちも共犯扱いになっちゃうかも?」
「BUNOOOOO!?」
「紗雨ちゃん、とりなしをお願いする」
更には、桃太と共にレジスタンスを結成し、古巣であったテロリスト団体〝C・H・O〟と戦った三人。
林魚旋斧が自慢のリーゼントに手を当てて悶絶し、柳心紺が八本足の虎に似た式鬼ブンオーのふかふかした身体を抱えてぶるぶると震え、ポーカーフェイスで知られた祖平遠亜までが露骨に顔を青くしているのを見て、クラスメイト達は目の色を変えた。
「え、冗談じゃなくて、本当に存在するの?」
「祖平さん、紗雨ちゃんがとりなしってどういうこと?」
混乱するクラスメイト達の前に進み出たのは、この場で一番説得力のありそうな五馬碩志だった。
「異世界クマ国を治める代表は、カムロ様と仰って、ここにいる建速紗雨様の養い親なのです。つまり、クマ国は紗雨の故郷でもあります」
「サメっサメー、紗雨は実は留学生? だったんだサメー」
紗雨は、修道服に似たサメの着ぐるみのしっぽを振りながら、いつものようにニコニコと微笑んだが――。
桃太は、五馬碩志がクマ国の名前を出し、紗雨の身分を明かしたことで、冒険者パーティ〝W・A〟の一員となったクラスメイトがどんな反応をするか緊張した。
「異世界クマ国が、紗雨ちゃんの故郷だって!?」
「つまり、クマ好きの人がクマの着ぐるみを着ている国、いや地方なのか?」
「かわいいっ。行ってみたい!」
しかしながら、彼の心配は杞憂に終わる。
学友達の反応は様々だったが、幸いにも悪いものではなさそうだった。
あとがき
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