第308話 パーティ名決定選挙
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「俺たちが作る新しい冒険者パーティは、〝自由奔放な冒険者たち〟を意味する〝Wild Adventurers (ワイルド・アドベンチャラーズ)〟、略称は〝W・A〟にしようと思う」
西暦二〇X二年七月一三日の早朝に開かれたホームルームで、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が、新しい冒険者パーティの名前を発表すると――。
「いいね!」
「BUNOO!」
「出雲君らしいわね」
「既存のしがらみに縛られない自由な冒険者、ぼく達に相応しいパーティ名ですね!」
サイドポニーが目立つ少女、柳心紺と彼女の従える式鬼ブンオー、瓶底メガネをかけた白衣の少女、祖平遠亜、桃太と仲の良い天然パーマの少年、関中利雄など、クラスの半分が賛同の声をあげた。
「おい、出雲。ちょっとおとなしすぎるんじゃないの? せっかくだから神聖とか浪漫とか帝国とか、格好良く盛ろうぜ?」
「うむ、八大勇者パーティと対抗するのだから、超次元とか、黙示録とか、創世とかいった単語も入れたいな」
しかしながら、クラスのもう半分――。
リーゼントで固めた頭髪が雄々しい少年、林魚旋斧や、七三分けで固めた神経質そうな少年、羅生正之らは反対。
焔学園二年一組は、お約束のようにクラスメイトが真っ二つに分かれてしまう。
「〝神聖浪漫帝国 (ホーリーロマン・エンパイア)〟だ!」
「〝超次元黙示録創世団 (ディメンション・ジェネシス)〟にしよう!」
「サイバー・ヒーロー……」
「ジャスタモーメント(ちょっとまて)、そこの猫は危険な真似はやめて、カゴに入るんだぜっ」
「コケーッ、〝六辻詠様とそのしもべ達 (ウタ&サーバンツ)〟にしましょう!」
「「このお嬢様、みかけは儚げな天使っぽいのに、けっこう図太いなっ」」
蹇々囂々の論戦は延々と続き、半日の間まとまることなく続いた。
「「こうなったら民主的に投票だ! 矢上先生、監督をお願いします」」
最後は投票にもつれ込んで決着したものの、桃太が勝ち取ったクラスの半分という支持は盤石だったらしい。
「厳正な投票の結果、〝Wild Adventurers (ワイルド・アドベンチャラーズ)〟、、略称は〝W・A〟に決定しました」
焔学園二年一組の担任教師である矢上遥花は、ジャージを押し出すほどに大きな胸の前に投票用紙を積み上げて、良く通る声で宣言した。
「わたしも、いいと思いますよ。かつて〝日出る処の天子、書を日没する処の天子に致す〟という親書を小野妹子に持たせ、海の向こうへ遣隋使を派遣した聖徳太子は、一七条の憲法を定める際に〝和を以て貴しとなす〟という一文を第一条に設けました。平時は大騒ぎしますが、いざとなれば手をたずさえて協力する、焔学園二年一組にぴったりだと思います」
「「うおおおおっ」」
奇しくも遥花が言ったように、クラスは再びひとつにまとまったのである。
「これらの書類は、五馬碩志さんの手で地上の冒険者組合と関係省庁へ届けられます。今後、わたしたちは冒険者パーティ〝W・A〟として活動します」
「矢上先生の言うとおり、初任務が親書の輸送なんだから、縁起はいいのか?」
「投票結果だ。受け入れるとも。それで出雲、横須賀の米軍基地にでも向かうのか?」
林魚と羅生の問いに、桃太は首を横に振った。
ここからが本番だと腹に力を入れる。
「いいや、違うんだ。林魚、羅生。これから俺たち〝W・A〟が親書を届けに行くのは、異界迷宮の奥にある〝異世界クマ国〟だ」
「「は?」」
あとがき
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