第303話 反逆者たち
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「万引き犯の呪いごときが、半世紀以上戦い続けた武神の威風に叶うわけなかろう? 今流している三味線の曲は、カムロが弾いた演奏の中で、珍しく吾輩と趣味の合うものを録音、編集したメドレーだ。生演奏には届かずとも、破邪顕正の力は十分にある」
冒険者パーティ〝G・C・H・O〟のスポンサーである、髭つきメガネを被ったスーツ姿の女性、オウモがホバーベースの屋根でスピーカーから流れる三味線の曲に合わせ、雅びやかに踊りながら断言した。
「フホホ。この車両は八岐大蛇の呪いを解くことで、例外的に機械が使えるそうだが、まさかダンスの伴奏に〝異世界クマ国代表〟の曲を流すとはな。さすがはオウモ、準備に手抜かりのないことよ」
すると、車内に続く階段からひょっとこの面をかぶった着物姿の老人が現れて、愉快そうに相槌をうち、オウモの手を取って共に踊り始めた。
「ふむ、やはりダンスはパートナーがいる方がしっくりくるな」
「フホホ、そうじゃろうそうじゃろう。人間をカビで怪物に変えようとした孟利座玖だけではない。六辻家と〝SAINTS〟も、七罪家と〝K・A・N〟も、このような悪逆をやり過ぎた」
オウモと円を描きながら踊る老人は、顔をくしゃくしゃにして笑った。
「まっ。六辻家当主代理の六辻剛浚はいまだ健在で、〝SAINTS〟の本拠地である〝三連蛇城〟にもまだ、本城の〝獰蛇城〟と、北の支城、〝豹威館〟 が残っているが、〝禁虎館〟を解放し、これらの事実を広めれば、世論はワシらに味方するじゃろうよ」
オウモはピッシリしたスーツを着ていたものの、躍動的に腕を振り、足でリズムをとって舞いながら老人の言葉に頷いた。
「ああ、そのための冒険者パーティ〝G・C・H・O〟だ。桃太クン達の新しいパーティが動き出す前に先手を取って、冒険者組合に支持基盤をつくることも叶うだろう。カムロからはいまだ反政府組織だのと罵られているが、〝前進同盟〟が亡国を復興する一助になるし、八岐大蛇を討伐する一手にもなるからネ。しかし、六辻家の重臣である久蔵さんが受け入れるとは思わなかったな」
そう。オウモの隣でひょっとこの仮面をかぶり、着物を着て三味線の曲に合わせて踊り狂う老人の正体は、六辻家と〝SAINTS〟の重臣の一人、六辻久蔵に他ならなかった。
「フホホホッ。石貫満勒は、あの二河瑠衣が、いやセグンダが見出した逸材よ。信じるに足る。どうせ老い先短い生命だ。英雄、獅子央焔が逝って一〇余年。馬鹿どものせいで醜く固まった世界が、一度ぶっ壊れる光景を見てみたいのヨ。くだらんプライドにすがる六辻剛浚めに、真の変革というものを見せつけてやろう」
「アハハハ。そいつはいい。そういう理由は、大好きだ。吾輩達の踊りを見せつけようじゃないか!」
オウモと久蔵が踊るホバーベースは、石垣を積み上げた〝禁虎館〟城内を三の丸から二の丸、やがては本丸へとゆっくりと昇りながら、怪物に変えられた冒険者達を元に戻してゆく。
「それにしても、オウモよ、せっかくの舞台だというのに、ビキニアーマーを着ないのか?」
「このダンスは仕事だぞ? 冒険者育成学校で見本を見せるならいざ知らず、社会人なら職場ではスーツを着るものだろう?」
オウモは大真面目に返答したが、彼女以上にネジが外れた久蔵は、イヤイヤと首を振り、駄々っ子のように地団駄を踏み始めた。
「なにを常識ぶるか、見損なったぞ。ワシは若い女子がビキニアーマーを着ているところが見たいんじゃー」
「久蔵は正直だなあ。でも、エロジジイは近づかないでくれ」
「ショーック!?」
あとがき
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