第302話 ダンスタイム
302
「燃えろ、ムラサマ。奥義開帳・〝魔竜咆哮〟!」
鉛色髪の巨漢青年、石貫満勒は、自身に迫る四メートル近い巨大な雷の光球を、パートナーたる〝鬼神具・妖刀ムラサマ〟が変じた大剣で両断――。
その勢いのままに、孟利座玖が変身した〝伝染鬼〟ガキソンの獣と鳥が入り交じった巨体を、右脇腹から左肩までを切り裂きつつ、刀身から焔を吹き上げた。
「ヒャッハァっ、俺様とムラサマの必殺剣、しびれるだろっ」
「でーち!」
「満勒大将、見事な一撃だった」
すかさず黒騎士が満勒とムラサマを〝空飛ぶ大盾〟に乗って回収し、互いの拳を打ちつけ合う。
「ギョエエエっ。イタイ、アツイっ」
一方、下半身を失って致命傷を負った大鳥に似た悪魔、ガキソンは苦悶の叫びをあげながらも、焼けただれた傷を自ら生み出したカビで覆い……。
「ダレカ、ダレカ、オレをたすけろ。このオレノ道具トナレエエエッ」
テロリスト団体〝SAINTS〟の拠点であり、自らに与えられた城塞、〝禁虎館〟に翼を向けて、再び青黒いカビをばらまき始めた。
「おい、この悪党っ。体が真っ二つなのに、まだねばるのかよ」
「もう戦力なんて残っていないのに、そんなにひとを不幸にしたいでちか?」
満勒が率いる冒険者パーティ〝G・C・H・O〟は、城塞を取り巻く三つの難所、〝弓兵地獄〟、〝要塞地獄〟、〝堕天使の楽園〟、攻略する途上で敵戦力を壊滅させており、虎の子だった精鋭も、先ほど妖刀ムラサマが放った鉄線で撃墜していた。
それ故に、〝伝染鬼〟ガキソンは、城に残る非戦闘員をモンスターに変えることで、手っ取り早く戦力を補充しようと試みたのだろう。
「ダマレ、手下など、いぐらでも作れるっ。これだけの浄化の力、貴様の刀でも切り尽くせまい!」
「満勒大将。こいつに話は通じないっ、これ以上の被害が出る前に完全に滅ぼすぞ!」
黒騎士の装いに身を包んだ呉陸喜が、孟利座玖と類似した悪党、黒山犬斗に殺された経験から、再び攻撃に出ようとした時……。
ホバーベースからベンベンという奇妙な音が流れてきた。
「この曲は三味線の音でちね。なんか懐かしいような気がするでち」
「おう、和楽ってやつか」
「待ってくれ、三味線なのに曲調はむしろロックやヘビーメタルだぞ?」
黒騎士は鎧兜の機能で、満勒はムラサマの力を借りて、それぞれ視覚と聴覚を拡大すると、音の出所は……、冒険者パーティ〝G・C・H・O〟の移動拠点であるホバーベース、その屋根に据え付けられた簡易ステージのスピーカーだった。
「見ろ、青黒いカビが消えてゆくぞ!」
〝G・C・H・O〟のスポンサーである、鼻メガネをかけたスーツ姿の女性オウモは、三味線らしきベンベンという音が特徴的な曲に合わせてステップを踏み、腕を振って舞うことで、人間を異形化させる悪魔のカビをあっさりと消滅させていた。
「ナンダ、ナンダ、ナニガオコッテイル!?」
それどころか、すでにガキソンの青黒いカビを浴びて、なかば肉塊に変化していた城内の事務員や作業員までが、曲を聴きダンスを見ることで元の肉体を取り戻し始めたではないか?
「万引き犯の呪いごときが、半世紀以上戦い続けた武神の威風に叶うわけなかろう? 今流している三味線の曲は、カムロが弾いた演奏の中で、珍しく吾輩と趣味の合うものを録音、編集したメドレーだ。生演奏には届かずとも、破邪顕正の力は十分にある」
あとがき
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