第301話 〝禁虎館〟上空決戦
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呉陸喜が扮する黒騎士と、鉛色の髪を刈り上げた巨漢青年、石貫満勒は、窮地においてなお笑みを崩さなかった。
二人は孟利座玖が変身した大鳥のような悪魔、〝伝染鬼〟ガキソンが振るう長大な炎の剣を〝飛行大盾〟で潜り抜けつつ、敵の獅子に似た顔面をすれ違い様に殴りつけた。
「ギョエエエっ」
「ひゅーひゅー、二人ともカッコいいでちよ」
全長三メートルに達する、獅子と怪鳥の入り交じった怪物がホームランボールのように吹っ飛んでゆく光景を見て、大剣となったムラサマが歓声をあげる。
「クソガキどもがあっ。我が世界の浄化をおおっ、じゃまするんじゃなああいっ」
「テメェはクソを投げつけることを浄化と教えていたのか? そりゃあクビにもなるわっ」
「満勒大将。こいつは人間としては最悪だが、悪魔としては脅威だ。人間を怪物に変えるカビをばらまかれては世界がピンチだ。私は大事な日常がゾンビ映画になるのは御免こうむる」
「そこで、あたち。伝説の妖刀、ムラサマの出番でち!」
ガキソンが翼から浴びせかけるカビの感染力は悪い夢のようで、異界迷宮カクリヨの第八階層〝残火の洞窟〟に建てられた城塞、〝禁虎館〟に残されたテロリスト団体〝SAINTS〟の非戦闘員を、次々に翼の生えた青い肉塊へと変貌させていた。
黒騎士と満勒が無事なのは、ひとえにムラサマが空中で切り捨てているからだ。
「くそっ、しもべどもよこいっ」
「ギョエッ」
「ギョエエエッ」
ガキソンは地表から吹き出すガスで燃える火柱に墜落する直前、部下達が伸ばす触手によって釣り上げられた。
「我が浄化を拒むならば、もう一度爆撃をくらえ!」
「「ギョエッ。ギョエエエッ」」
ガキソンは再び頭上に雷を生じさせ、〝禁虎館〟上空へと頭上に身の丈よりも大きい光球をつくりあげた。
同時に、彼に付き従う翼の生えた、数十体の肉塊が触手を振るい、体内から花火玉に似た火薬爆弾を掴みだして、黒騎士と満勒へ投げつける。
「避けてもいいんだぜ。その時は、おまえだぢの仲間がら命を奪うだけづああ」
孟利座玖一党による、〝鬼の力〟と〝人類の科学〟を組み合わせた爆撃は、つい先ほど城塞の門と橋を吹き飛ばしている。
冒険者パーティ〝G・C・H・O〟のホバーベースとバイク隊も、防御態勢をとっているならば別だが、移動中に直撃すればただではすまないだろう。
「奪う、奪う、奪い尽ぐず。奪えるものがなぐなるまで。奪えばすべてが手に入るんだよおおっ」
「ガキソンといったか。わかったぜ。お前。他の誰かから奪うことしか考えないから、何も得られないんだろう」
「もうその技は、見切ったでち」
されど、満勒のフィジカルと、ムラサマが宿す〝鬼の力〟は、固い絆で結ばれたがゆえに、ガキソンとしもべたちの歪んだ主従関係を凌駕する。
「黒騎士、ちょっと上に飛んで前へ。おっけい、鉄線をくらうでち」
「ギョエエエっー?」
黒騎士が〝空飛ぶ大盾〟を操り位置調整をした後。
巨大な鉄塊の如き大剣ムラサマが、刀身から数千もの細い鉄線を伸ばして、花火玉を細断しつつ、翼の生えた肉塊に絡みつき――。
「俺様は、オウモさん、シショーと、黒騎士、ムラサマ。俺様と共に歩いてくれる仲間に恥じないよう生きる。あばよ、バカモンっ。テメェの略奪はここでおしまいだ!」
満勒は、巨大な人斬り包丁から伸びた鉄線束をクライミングロープ代わりに使い、黒騎士の隣からジャンプして空中を疾走した。
「ぐざったミカンめええっ、雷球で焼き尽くじでやるううう!」
「燃えろ、ムラサマ。奥義開帳・〝魔竜咆哮〟!」
満勒は自身に迫る四メートル近い雷光球を、焔をまとった大剣で両断――。
その勢いのままに、ガキソンの獣と鳥が入り交じった巨体を、右脇腹から左肩までを切り裂いた。
あとがき
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