第300話 黒騎士と覇者と
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鉛色の髪を刈り上げた巨漢青年、石貫満勒と手を打ち合わせたムラサマは、淡い夜星の如き光に包まれて、幼い少女から鉄塊のごとき長大な大剣へと姿を変える。
「舞台登場 役名宣言――〝覇者〟!」
「あたち達の強さ、見せてやるでち!」
翡翠色の水着鎧を着た、満勒の師匠セグンダは、大剣をかざして見得をきる弟子を見て、彼の背中をぺちぺちと叩いた。
「おい、バカ弟子……」
「シショー。心配無用だ。こんなこともあろうかと、バイクの荷物入れにエチケットマスクと手指消毒用アルコールを準備してあるっ」
「満勒。必要ないでち。あたちは妖刀、カビごとき、とどくまえに斬るでちっ」
「違う。そうじゃない」
セグンダは、テロリスト団体〝SAINTS〟の拠点、〝禁虎館〟の上空を舞う怪物を指差した。
「バカ弟子もムラサマちゃんも、どうやってガキソンの相手をするつもりなんだ?」
「「あ」」
どうやら満勒もムラサマも、孟利座玖が変身した獅子の頭を持つ鳥に似た悪魔、ガキソンが人間を異形化させるカビを振り撒くことに意識を集中し過ぎて、標的が空を飛んでいることを失念していたらしい。
「満勒大将、その為に私がいる」
呉陸喜が扮する黒騎士は、飛行能力を持つ大盾を地面の上に置いて、満勒と彼の手に握られたムラサマへ手招きした。
「黒騎士、手を貸してくれるのか?」
「もちろんだ。私達の手で鬼を退治してみせようじゃないか」
「ありがとうでちっ。やってやるでち」
黒騎士が乗った盾に、満勒と大剣に変じたムラサマが乗り込んだ。
どちらも高身長で大柄だったが、フルプレートアーマーを着た黒騎士の専用装備として、三メートルもある長さのおかげでぎりぎりで相乗りできた。
「それじゃあ、私たちは〝禁虎館〟を制圧します。オウモさんが悪魔カビ対策にはとっておきの手段があるそうなので、ホバーベースについてはご心配なく」
「ファファファ。弟子の成長を見守るのも師匠の誉れ、存分にやってきなさい」
長い黒髪のスレンダーな女性、炉谷道子が大型バスに似た車両、ホバーベースのハンドルを握りながら、アクセルを踏み……。
徒歩のはずのセグンダが、なぜかバイク隊よりも速いスピードで走りながら先導しつつ、〝禁虎館〟の天守閣を目指して走り始めた。
「ぎざまら、それは、おれの城だ。わたさん、わたざんぞおおお」
空中を旋回する孟利座玖こと、〝伝染鬼〟ガキソンは、調整に失敗した拡声器のごとくエコーがかった声で吠えながら、青黒い翼から再びカビのような胞子をばらまき始める。
「満勒、落ちるなよ」
「ヒャッハァ、問題ない。黒騎士、カビの相手は俺様とムラサマに任せろ!」
「剣舞には、病や災いをたつという伝承もあるでち。妖刀をなめるなでちいい」
黒騎士は飛行大盾に乗って加速、同乗した満勒は、大剣を横薙ぎにふるって炎をまとう衝撃波を飛ばし、人々を異形化させる青黒いカビを焼き尽くす。
「ヒャッハァ! お前達〝SAINTS〟と同じで、見かけばかりがご立派で、中身のない攻撃だ」
「だまれ、だまれ、誰の授業が空っぽだと!? 我々のように崇高で革命的な真人類の価値が理解できない貴様達は人として壊れている。灰となれっ。鬼術、爆光剣!」
ガキソンは、先ほど爆撃に使った赤黒い火球を剣のように変えて、突き出すものの……。
「孟利座玖。私は貴方の前職にも、その身勝手な妄執にも興味はないが、どうやら後ろばかりを向いているようだ」
黒騎士と満勒は、窮地においてなお笑みを崩さず、〝伝染鬼〟ガキソンが振るう長大な焔の剣を潜り抜けつつ、獅子に似た顔面をすれ違い様に思い切り殴りつけた。
「ギョエエエっ」
あとがき
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