第299話 伝染鬼ガキソンの暴虐
299
「〝アブラメリンの魔導書〟よ。我を守護する偉大なる天使の力を与えたまえ。舞台蹂躙 役名変生――〝伝染鬼〟ガキソン! ギヨエエエエ!」
テロリスト団体〝SAINTS〟の拠点、禁虎館の城主、孟利座玖は、懐から禍々しい書物を取り出して噛み付くや、金銀で着飾った黄色い軍服をびりびりと破りながら、獅子の頭をもつ全長三メートルの大鳥、否、悪魔へと変貌。
自らの力で、翼の生えた青い肉塊に変えた元部下達を率いて、甲高い雄叫びをあげた。
(リウが無理やり変えられた〝蛇髪鬼〟ゴルゴーン〟や、四鳴啓介が変身した〝八岐大蛇・第四の首〟と同じか!)
呉陸喜が扮する黒騎士は、膨大な〝鬼の力〟の気配に戦慄した。
彼の親友である出雲桃太は、人間をやめた悪鬼にも恐れることなく挑んでいたが、彼が隣にいない今、肌が泡立つ。
「「うおおおっ、こっちへ来るなあ!」」
冒険者パーティ〝G・C・H・O〟の団員も同じなのだろう。
天翼隊の爆撃にも悲鳴を上げなかった荒くれ者達が、バイクのシート下から弓を取り出し、半狂乱になってガキソンや空飛ぶ肉塊に矢を放つも、冷静さを失ったからか、それとも敵の飛行力が勝るのか、ひらりひらりとかわされて掠めもしない。
「シショー、ガキソンって何だ……?」
「名前の響きからすると、西洋の悪魔みたいでちが……」
黒騎士が所属する冒険者パーティ〝G・C・H・O〟の若き代表、石貫満勒と、彼が契約した〝鬼神具〟の化身である、日本人形めいた格好の少女ムラサマは、満勒の師であるセグンダに訊ねた。
「ふむ。鳥の要素を持つ姿で描かれることの多い、ヘブライ伝承に伝わる悪魔だね。疫病を蔓延させるとか、争いを広げるとか諸説あるが……、あの男、孟利座玖の場合は、人間を異形化させるカビのようなものをばら撒いて、彼の手駒へ変えているようだ」
セグンダは、翡翠色の水着鎧から溢れそうな胸を揺らしつつ、白い腕を伸ばして天守閣を指差した。
「手駒って、なんだありゃあ?」
「ひ、ひどいでち」
「……」
満勒、ムラサマ、黒騎士は、セグンダの手の方角をつられるように見て、息を呑んだ。
「「ひいいい、うでが、あしがああ」」
異界迷宮カクリヨの第八階層、〝残火の洞窟〟に建てられた和風城塞から逃げだそうとする人々が、青黒いカビの胞子に包まれ、異形と化してゆくのが見えたからだ。
「我々〝G・C・H・O〟は結界で守られているから無事だが、下手をすると、この城〝禁虎館〟にいる〝SAINTS〟の団員全員が、カビに憑かれて人間でなくなるぞ!」
満勒は師の警告を聞いて、刈り上げた鉛色の髪の下にある額に両方の手をあてたあと、気合を入れるようパンと自らの頬をはった。
「ヒャッハァ、シショー、道子さん、バイク隊の皆と一緒に進んで、〝禁虎館〟を降伏させてくれ。戦う力のない奴まで、怪物に変えられちゃあ、目覚めが悪いからなっ!」
「ほう、ならば満勒よ。仲間の矢すら届かない、空飛ぶ悪鬼はどうするつもりだ。てっきり私が討つものだと思っていたが?」
セグンダが優しいひとみで見守る中、満勒は太い腕で力こぶをつくってみせた。
「ガキソンは、俺様が落とす。俺様は冒険者パーティ〝G・C・H・O〟のリーダーだからな。ムラサマ、一緒に来てくれるか?」
「もちろん。お互いの目的を果たすまで、あたちと満勒は一蓮托生でち!」
満勒と手を打ち合わせたムラサマは、淡い夜星の如き光に包まれて、幼い少女から鉄塊のごとき長大な大剣へと姿を変える。
「舞台登場 役名宣言――〝覇者〟!」
「あたち達の強さ、見せてやるでち!」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)