第298話 女剣鬼セグンダ、出陣
298
「奥義開帳、飛燕返し!」
二つのツノが生えたサンバイザーのような鬼面をかぶり、翠玉色の細いブラジャーのような金属製胸当てに、股間を守る際どいV字のガードという艶めかしい水着鎧を身につけた美しき女剣鬼セグンダが、白く輝く太い足を踏み出して、身の丈よりも長い緋色の刀を振るうや、橋や門のパーツのような瓦礫にとどまらず、爆風の生み出す衝撃波すらも跳ね返した。
「あ、あのビキニアーマーは、この前まで六辻家当主、詠様の影武者を務めていた女か!?」
「わ、我ら勇者パーティ〝SAINTS〟を裏切って、ゴミのような冒険者パーティ〝〝G・C・H・O〟につくというのか?」
呉陸喜こと黒騎士が、兜の聴覚素子の機能で、上空を舞う空飛ぶ箒や絨毯に乗ったテロリスト団体〝SAINTS〟で交わされるささやき声を集めると、どうやらセグンダのことを知っている者もまじっていたらしい。
(我が友トータが、勇者級の仲間を集めてなお、苦戦した強さだ。まさかエネルギーすらも反射するとは、セグンダさんの強さには憧れるな!)
黒騎士が、いつかは並ぼうと闘志を燃やす間にも……。
「「ぎゃあああ」」
セグンダが白い腕と輝くばかりの太ももを弾ませながら、緋色の長刀で弾き返した爆発のエネルギーは、あたかも竜巻のように荒れ狂い、精鋭であるはずの〝天翼隊〟の隊員を次々と墜落させた。
「そんな、あ、あいつは強い」
「孟利隊長、勝てません。逃げましょう」
黄色いユニフォームを着た〝SAINTS〟の団員達は、セグンダの勇姿を見るやへっぴり腰になって戦場に背を向けた。
「おれの命令に反するなど許さん!」
「「うわああ、何をするんだ?」」
猛獣に似た鬼面を被り、金銀のアクセサリーで着飾った成金趣味の男、孟利座玖は、翼から青黒いカビのような胞子を浴びせかけ、彼らの足を無理やり止めさせた。
「おれは教師だぞっ、クラスで一番偉いんだ。生徒はおれの言うことを聞かなきゃおかしいだろう! それを馬鹿にしやがって、毎日毎日ムカつくんだよ!」
孟利座玖は場違いにもほどがある恨みつらみを吐き出しながら、青黒い翼からカビに似た胞子をばら撒いてゆく。
「うっぷんを晴らすために万引きをしたら、そんなツマラナイ理由で学校をくびにしやがって、ぜったいにゆるざん。お前たちもそう思うだろう? だから、おれのふぐじゅうをてづだえ」
「「ぎゃああああっ、苦しい。体がいでええっ」」
苦悶の声をあげる部下たちは、青黒いカビ胞子の影響か、もはや人間の姿形を保っていなかった。
人間の筋肉と骨、空飛ぶ箒や絨毯の破片がごちゃ混ぜにくっついて、翼の生えた青い肉団子がごとき異形の怪物体に変貌する。
「あの〝禁虎館〟の城主は、孟利座玖って言ったか? 味方を攻撃しながら、なにをわけのわからないことを言ってるんだ?」
「満勒、耳をかす必要ないでち。ただバカが犯罪をおかしただけのことでち」
「だが、〝鬼の力〟は負の感情に反応する。〝S・E・I 〟のトップ、四鳴啓介と戦った時と雰囲気がそっくりだ。このままだと奴は〝鬼神具〟に魂を売り、悪鬼へ堕ちるぞ!」
黒騎士が親友、出雲桃太との共闘経験を踏まえて、冒険者パーティ〝〝G・C・H・O〟の総大将である石貫満勒と、彼の保護者であるムラサマへ警告するも、時すでに遅かった。
「〝アブラメリンの魔導書〟よ。我を守護する、偉大なる天使の力を与えたまえっ。舞台蹂躙 役名変生――伝染鬼ガキソン! ギヨエエエエ!」
孟利座玖は、懐から禍々しい書物を取り出して噛み付くや、獅子の頭をもつ全長三メートルの大鳥、否、悪魔へと姿を変え、甲高い雄叫びをあげた。
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)