第295話 天守閣会議室にて
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「やあやあ、皆さんお揃いで。孟利座玖さん、まるで学級崩壊のような惨状じゃないですか。一体どういうことですか?」
呉陸喜こと黒騎士が、〝鬼神具〟たる〝蒸気鎧〟の力で聴覚を拡大し、テロリスト団体〝SAINTS〟が籠る城塞、〝禁虎館〟の内部を探っていると……。
冒険者パーティ〝G・C・H・O〟との戦闘で大混乱になった場内でただ一人、奇妙に落ち着いた人物が城の天守閣最上階にある会議室を訪ねていた。
「は、晴峰卿!?」
「〝K・A・N〟幹部であるアンタがどうしてここに?」
「同盟を結んだ七罪家の使者である貴方といえ、この城は六辻家のものだぞ。勝手をされては困る」
黒騎士は、謎の闖入者に興味を惹かれ、彼の言動に注目した。
「まあまあ、落ち着いてください。私、晴峰道楽は、これまで日本国を導いてきた偉大な主人、七罪業夢様に使える忠実な執事ですが、〝K・A・N〟では、ただの一団員にすぎません。城主である孟利さんや幹部の皆様に口を挟む気はありませんとも」
晴峰道楽と名乗った中年男は、穏やかな声で諭すように言った。
「しかし、劣勢だというのに、会議室に閉じこもっていて良いのですか? このまま負ければ冒険者組合に捕まって裁判にかけられるか、そうでなくとも、六辻剛浚様に処刑されてしまいますよ? 過去に座玖さんの万引きが露見して、教職をクビになった時のように。――もっとも、今度は物理的にクビが飛びそうですが」
黒騎士は、晴峰の率直な物言いに驚いた。
(なるほど、六辻家と〝SAINTS〟が小田原評定とばかりに、結論も出さずに時間ばかりを浪費していたから、同盟相手である七罪家と〝K・A・N〟の使者が釘をさそうと顔を出したのか? それにしても嫌らしい煽り方をする)
〝禁虎館〟の責任者である孟利座玖も、第三者の酷薄な指摘を受けて、ようやく自分の立場を自覚したらしい。
「晴峰卿、あれは万引きなどではない。俺が好意で使ってやったのに、物事の道理を知らない店主に難癖をつけられただけだ。だいたい、我々が負けるなどとんでもない。〝|G・C・H・O《グレート・カオティック・ヒーローズ・オリジン》〟の連中を皆殺しにし、その装備を奪えばいい。俺は無能な奴隷売買人の餓超とは違う。くさったミカンは残らずデリートだ!」
「そうだこれまでと何も変わらない。奪い続ければ、俺たち〝SAINTS〟はいつまでだって戦い続けられるんだ!」
「我々には慰謝料代わりに、装備を貰ってやる権利がある」
「城主として命じる。天翼隊、総員出動だ。奴らから髪の毛一本残らずむしりとってやれ!」
司令部にいた〝SAINTS〟の団員達は、晴峰に煽られるがまま、一斉に会議室から出ていった。
「……私が誘導したといえ、こうも簡単に要害を捨てるかね? 六辻剛浚の取り巻きもタカが知れているな。〝前進同盟〟の資金提供を失った六辻家と〝SAINTS〟など、もはや肉盾にしかならないか」
晴峰がこぼした言葉は、黒騎士にしか聞こえていなかった。
されど、彼には不穏な呟きの真意を探る時間などなかった。
「舞台登場 役名宣言――〝堕天御使〟! くたばれカスどもおおお!」
猛獣に似た鬼面を被り、戦場だというのに金銀で着飾った成金趣味の男、孟利座玖を先頭に、〝鬼神具〟の使い手らしき精鋭二〇人が翼をはためかせながら天守閣を飛び立ったからだ。
あとがき
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