第28話 隠された異世界の存在
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桃太たちが、大型ディスプレイに映された炎に包まれる東京に言葉を失う中――。
「〝鬼神具〟のひとつ、空間干渉兵器〝千曳の岩〟を使った物質転送攻撃か。照準は大雑把だが、おそらく地球上の衛星やドローンで得た位置情報を利用しているな」
カムロは牛頭仮面の奥から、苦虫を噛みつぶすような渋い声で呟いた。
「はい。我々がクマ国との〝通神〟を行っているように、〝C・H・O〟も、なんらかの手段で地球上の情報を得ているのでしょう。照準が困難なのか、カクリヨ内部での砲撃は確認されていません」
クマ国の代表たるカムロは、日本政府の外交官である奥羽以遠に、冷ややかな目を向けた。
「日本政府には、予め警告を送ったはずだ。異界迷宮カクリヨ内部で止めないと厄介なことになる、とな。なぜ反乱の早期鎮圧に失敗した?」
「残念ながら、他の八大勇者パーティは政府への協力を拒否しました。彼らは互いの既得権益を守るために雁字搦めになっていますから。七罪家に至っては、隠れて三縞家の支援をする始末です」
「そんな……っ。父さん、母さんっ」
桃太は地上に残っている家族を思い、強く拳を握りしめた。
他の八大勇者パーティが動かないことにも失望したが、〝C・H・O〟幹部の黒山が勝ち誇っていたように、すでに盤面は詰められていたのだ。
「以遠よ、今の様子じゃ、日本に滞在する外国人も被害に遭っているだろう。米軍や国連が黙っているとは思えないし、そもそも何の為の自衛隊だ?」
「諸外国は支援を高く売りつけたいのか、それとも賄賂でも贈られたか、我が国の内政問題と主張して不干渉です。国会では〝C・H・O〟をテロリスト団体に認定するところまでは進んだものの、自衛隊投入の是非について延々と議論中ですよ」
一方の日本政府は、完全に後手に回っている。
「緊急事態を想定した法律くらい、事前に準備するなり、即座に通すなりしろ」
「国民の安全よりも、面子目的の反対を優先する一部政治家には困ったものです。そこで、クマ国の守護神〝スサノオノミコトの役名〟を襲名されたカムロ様に、日本政府よりお願いがあります」
そんな中、以遠が持ちかけた交渉は――。
「〝千曳の岩〟の砲撃は、あくまで地球上が対象です。異界迷宮カクリヨ内部からであれば、攻略も比較的容易でしょう。亡命されたとはいえ乂様は元五馬家の当主。旗頭となってクマ国より義勇軍を率いて、我が国を害するテロリスト鎮圧にご協力いただけませんか? もちろん謝礼と投資をお約束致します」
掛け金として、以遠がディスプレイで示した数字は、目の玉が飛び出るような大金だった。
「なっ」
「サメっ?」
「シット! 黙って聞いてりゃ、奥羽さんよ、そいつは筋は通らんだろう」
「奥羽様っ。政府は自国の力で戦わず、他国を傭兵にするおつもりですか?」
しかしながら、桃太達が動揺と嫌悪の表情を見せたのは言うまでもなく――。
「断る。子供を大人の政争に巻き込むな。その上、強制的に戦場に送ろうだなんて、言語道断だ」
カムロも即断即決で拒否。保護した子供を金で売れといわんばかりの提案に、彼の低い声には隠しきれない怒気が混じっていた。
「以遠、日本政府に伝えろ。クマ国の援軍を借りたいのなら、まずは我が国の存在を地球全土に明かすのが筋だろう?」
「何度も申し上げましたが、それはできません」
桃太は以遠の不可解な返答に、思わず叫んでいた。
「どうしてですか? そんなのおかしいです!」
あとがき
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