第294話 城塞〝禁虎館〟の混乱
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「ヒャッハァ! 邪魔なヤツはぶっ飛ばせ。〝禁虎館〟一番乗りは俺様だあっ」
西暦二〇X二年八月一〇日の午後。
鉛色髪の巨漢青年、石貫満勒と、彼が率いる冒険者パーティ〝G・C・H・O〟の主力戦力である、五〇台の蒸気バイク部隊は悠々と城内へ進入。
呉陸喜が扮する黒騎士も空飛ぶ盾をバイク隊に横づけるように着地して、参謀の炉谷道子が操縦する移動拠点、ホバーベースも後に習った。
「ようし、全員。目的地到着。このまま何もかもぶっ壊せそうぜ!」
「「ひやっはあ、総大将。お供しますぜ」」
満勒は砦を破壊する気満々だったが、コンビを組む日本人形めいた格好の少女ムラサマが、彼の広い背中を小さな手のひらでぺしぺしと叩いて止めた。
「待つでち! 満勒、この禁虎館は、あたち達がいただくのだから、あまり壊してはいけないち。ねらうのはSAINTS〟のえらいやつがいる場所。きっと、建物の一番上か下かでち」
黒騎士もムラサマを援護すべく、盾を降りて進み出た。
「満勒大将。出雲桃太が使うソナー技ほどの精度はないが、私も似たことができる。司令部がどこにあるのか内部を探ってみよう」
「そうか。野郎ども、一旦停止だ。黒騎士、頼むぜ!」
「ああ、任せておけ。モード〝狩猟鬼〟出力拡大!」
黒騎士は〝狩猟の悪魔バルバトス〟の力で聴覚を強め、眼前にある城塞〝禁虎館〟の様子を探った。
「交戦か! 撤退か! どうすればいい?」
「城主である孟利座玖様は会議中だ。持ち場を離れるな」
「会議だって、もう敵は目の前なんだぞ。城のてっぺんで何をやっているんだ?」
黒騎士は混乱した場内の会話から余計なノイズを除いて、的確に情報を集めていった。
(先に倒した孟利餓超が言っていたとおり、彼の従兄弟である孟利座玖が〝禁虎館〟の総指揮官らしいな。既に門を抜かれたというのに、天守閣で何をやっているのか?)
黒騎士は鬼術による音声収集を〝禁虎館〟の天守閣最上部、屋根に黄金の虎が飾られた部屋へ向けた。
城内はどこも大混乱だったが、それは指揮所らしき会議室も例外ではなかったようだ。
「門と橋が破壊されただと? 〝G・C・H・O〟のスポンサーが〝前進同盟〟だって話は、本当だったのか! まさか裏切るだなんてっ」
「孟利隊長、クーデター前だってのに、防衛拠点が軒並み陥落したぞ。物資も残り少ないのにどうするんだよっ」
「俺のせいじゃない。防衛拠点が陥落したのは、前線隊長の蛾超がへまをしたから。物資が心許ないのは、剛浚様が金も武器も独り占めして分けてくれないからだ。冒険者組合のくさったミカンどもが攻めてきているのに、援軍ひとつよこさないなんて薄情にもほどがあるっ」
〝SAINTS〟の幹部達は、もはや〝G・C・H・O〟が場内に踏み込んでいるというのに、会議室の中で喧々轟々と罵り合いを続けていた。
(これなら心配なさそうだ。天守閣への進撃を提案しよう……。おや?)
黒騎士は城の最上階にある会議室へ、誰かが近づいているのを察知した。
〝禁虎館〟にいる〝SAINTS〟の人員が悉く浮き足立つ中、その人物だけは、呼吸も足運びも、まるで他人事のように冷静だった。
そして、謎の人物は天守閣の最上部にある会議室へ到着する。
「やあやあ、皆さんお揃いで。孟利座玖さん、まるで学級崩壊のような惨状じゃないですか。一体どういうことですか?」
あとがき
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