第289話 黒騎士 対 堕天使!?
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呉陸喜が扮する黒騎士は、クソのような戯言を繰り出す、コウモリの翼が生えたアヒルに似た顔の襲撃者、孟利餓超の鼻っ柱を籠手で殴りつけた。
「人身売買は違法だろう? わざわざ敵の前に懺悔にくるとは酔狂だな!」
「ざ、懺悔することなどあるか。おれたちは勇者パーティ様だぞ。一般人とは価値が違うから許されるんだよっ。そうさ、盾が邪魔なら、それを操る〝黒鬼術士〟を殺せばいいんだ!」
勇者パーティを自称するテロリストは裏拳の直撃を受け、鼻血と殺意を垂れ流しながら、自らの胸元に黒い書物を当てる。
「舞台登場 役名宣言――〝堕天使〟!」
孟利蛾超の胸にぴったりと吸い付いた魔術書は、赤と黒のまがまがしい霧を吐き出しながら、彼の肉体にコブのような肉塊を生じさせ、三メートル近い巨漢に変身させた。
手にも鋭い爪が生えて、背のコウモリめいた翼もより厚く大きく変化する。
「ギョギョギョ。おれは優しいからよお、奴隷にちゃあんと教え込んでやろう。地に堕とされた御使いの力ってやつをなっ!」
蛾超は爪をがちがちと震わせながら切りかかり、黒騎士は右手で握るナイフで受け止めて、火花が散った。
「満勒大将や矢上先生と同じ、〝鬼神具〟の使い手か。これは、〝蒸気鎧〟の助力なしでやり合うのは面倒そうだ」
「ギョギョギョ。驚くのはこれからよ。おれの〝黒き魔術書〟のパワーはここからだあっ」
蛾超は出っ歯のせいでアヒルめいた印象の口を殊更に突き出しながら笑うと、彼の胸元に埋め込まれた黒い書物が赤い光を発し、コウモリの翼から二〇本もの赤黒い肉の槍が飛び出して、黒騎士の腕を守る籠手の装甲をえぐり取った。
「ギョギョギョ。おれの槍は鋼鉄をもぶち抜く。たとえ日緋色金であっても関係ねえっ」
黒騎士は籠手がざっくり削られ、機械仕掛けの義腕が露わになった跡を見て、口角をあげた。
(やはり初見殺しというのは恐ろしい。我が友、トータの草薙を初めて受けた時は、蒸気鎧を壊されたものだ)
今の一撃も危なかったのだが、鎧の一部を削られただけ。
桃太との激戦と比較すれば、損害はないも同然だ。
「なるほどよくわかった。鬼神具は強いが、隙だらけの攻撃だなっ。〝鬼の雷〟!」
「なにを言って、へぎゃああ」
黒騎士はナイフで二〇本の肉槍を丁寧にさばきつつ、電撃を浴びせてへし折った。
「思い上がったお前をぶちのめすのに、〝黒騎士〟の役名は不要だ。〝黒鬼術士〟のまま片付ける!」
そう。黒騎士は未だ背負ったランドセル型の蒸気エンジンに、火すら入れていない。
「ギョっ。遠距離戦しかできない下級職の術者が偉そうにっ。全距離を制する上級職の力を見せつけてやる!」
怒り狂った蛾超は、先ほどの倍、四〇もの肉槍をコウモリの翼から生み出して、四方八方から浴びせかけた。
「ならばこちらも教えてやる。お前が侮った〝G・O〟。その団員である術士は、接近戦もお手のものだ」
しかし、黒騎士は重装甲ながらも、巧みな重心移動とナイフさばきで寄せ付けずに懐まで入り込み、ナイフを一閃させてコウモリ翼を根本から断ち切った。
「いでえ、いでえよおっ。こうなったら、必殺の爪技で……」
「読めているといった。お前は〝鬼神具〟を使うのではなく、〝鬼神具〟に使われている。必殺技とはこういうものだっ。いくぞ、ロケット拳骨!」
黒騎士は孟利蛾超の爪を左手で払いながら、機械仕掛けの右腕――〝鬼神具・茨木童子の腕〟――を分離して飛ばし、腐れ外道の胸元で赤く輝く黒い書物をパンチでビリビリに引き裂いて破壊した。
あとがき
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