第288話 踏みにじられた者の怒り
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「自分自身で味わったから、知っているぞ。一〇年前、英雄、獅子央焔が亡くなった後、六辻家と〝SAINTS〟、七罪家と〝K・A・N〟が、児童救済、社会福祉の看板を掲げて何をやったか!」
「冒険者の遺族、子供に支給される国からの手当をかすめとり、代わりに暴利で借金を背負わせた腐れ外道ども。お前達に恨みはあっても恩はない!」
呉陸喜が扮する黒騎士は、仲間たちの悲痛な叫びを聞いて嘆息する。
(クマ国の過激派団体〝前進同盟〟は世界各地の革命勢力やテロリストもどきを支援しているが……。自前の戦闘員が多いわけではない。中でも〝G・C・H・O〟に参加した日本の冒険者は少なく、八大勇者パーティに踏みにじられた被害者や、元零細パーティからの移籍者がほとんどだ)
北の軍事国家が新型兵器の実験で、異界迷宮カクリヨへの扉を開いてから半世紀――。
日本国政府が弱体化し、八大勇者パーティの権力が肥大化した結果、外国の犯罪結社が手を回したといえ、さまざまな悪行がまかり通るようになってしまった。
それでも英雄、獅子央焔が健在だった頃はまだ自浄作用があった。
しかし、一〇余年前に彼が没すると、自身を後継者にすると遺言状を偽った弘農楊駿が〝勇者党〟を率いて政権を奪取。
黒山犬斗ら悪徳官僚と共に、偏った予算配分を強行し、いくつもの悪法を通してしまう。
〝勇者党〟は次の選挙で敗北するも、その後始末を巡って冒険者組合はお家騒動に発展し、焔に後事を託された一葉亮、二河瑠衣、五馬審といった良心的な実力者が殺害されて、八大勇者パーティは瞬く間に堕落してしまった。
(そんな悪夢を加速させたのが、〝鬼の力〟の根源らしき〝八岐大蛇〟のエージェント、獅子央賈南だ。今は伊吹賈南と名乗っているそうだが……。元夫の獅子央孝恵はともかく、トータはなぜ彼女を仲間として受け入れているんだろう?)
陸喜は桃太の親友であると自認していたが、この理由だけはまるで見当もつかなかった。
(我が友は色気に惑わされるような男ではない。でも、トータは割とスケベだった気もするし、むしろ女の子は大好きだったからなあ。ひょっとしてデートしていたサメの着ぐるみを着た子とうまくやれていないのかな? ここは兄としてリウの背を押すべきじゃないか?)
黒騎士がそんな風に物思いに耽りながら、空飛ぶ盾で敵弓兵が射る矢を落としていると、背中から生えたコウモリに似た翼をはためかせ、見張り台からホバーベースの屋根へと飛んでくる人影があった。
「おい、盾を操る鎧野郎。お前は〝G・O〟の元団員だろう? 装備のデザインに見覚えがある」
「だとしたら、どうだというんだ?」
黒騎士が不機嫌に応対すると、出っ歯のせいでどことなくアヒルやガチョウを連想させる、荒んだ雰囲気の男は妙にニヤニヤと笑い始めた。
「ギョギョ。おれは孟利蛾超。〝三連蛇城〟のひとつ、〝禁虎館〟の城主、孟利座玖の従兄弟様だ。〝鬼神具・黒き魔術書〟の使い手といえば有名だろう?」
「知らないな」
黒騎士は敵指揮官である孟利座玖の名前は覚えていたが、さすがに親族までは、把握していなかった。
「そうかい、おれは一〇余年前から、〝G・O〟のことをよーく知っているぜ。スポンサーの乱心で潰れた哀れな弱小パーティ。パニックになった団員を闇討ちして、適当に借金をせおわせ、家宝だとぬかす道具を二束三文で買い叩き、ヨメやガキと一緒に売っぱらったんだ。これがいい稼ぎになったんだよ。転売は青春だったなあ。……へぶしっ!?」
黒騎士はクソのような戯言を繰り出す襲撃者、孟利餓超の鼻っ柱を籠手で殴りつけた。
「人身売買は違法だろう? わざわざ敵の前に懺悔にくるとは酔狂だな!」
あとがき
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