第27話 燃える地上
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桃太が一〇〇インチ超えのディスプレイという現代家電に驚く間にも、カムロは着々と準備をすすめる。
電気がないにもかかわらず、画面には砂嵐めいたノイズが走り、耳をつんざく音がハウリングする。
「おい、ニート! 此方は繋いだぞ。さっさと働け」
「ひどいなー、スサノオノミコト。私もこの通りちゃんと仕事をしていますよ」
不安定な画面の向こうでは、人型のシルエットが何やら操作を続けていた。
五分ほど待つと、ようやく通信が安定したらしい。
コンピュータと書類に囲まれた一室の中央に、桃太でもわかるほどに上等なスーツを着た、貴公子めいた風貌の青年が映っていた。
「あーっ。矢上遥花さんと、出雲桃太君じゃないですか。生きていたんですか?」
「乂と同様に、クマ国で保護したよ。桃太君、こいつは奥羽以遠。ニート志望の外交官だ」
「ヤダナー、スサノオ……カムロ様。本当のこと言わないでくださいよ」
桃太は、カムロが露骨に相手を挑発したが、以遠という青年外交官が飄々と応じるのを見て首を傾げた。
(えーっと、カムロさんは以遠さんをニートと呼んで、以遠さんはカムロさんをスサノオノミコトと呼んだ)
桃太はスサノオノミコトって日本の荒っぽい神様の名前だっけ? と頭を捻る。
(つまり、俺とリッキーのように、渾名で呼び合うくらい仲が良いってことか?)
桃太は、遥花がクーデターの内容を報告する間、カムロと以遠をぼんやりと見つめていた。
「……以上が、〝水苔の洞窟〟で目撃した全てです。奥羽家といえば、ご親戚が冒険者パーティLAWでご活躍ですよね。迷宮でお世話になりました」
「矢上さん、本当ですか? あいつらはヤンチャだけど度胸あるからなあ」
貴公子然とした外交官と、仮面の代表の態度は妙に張り詰めていて、危険な匂いがするのだ。
「以遠だって、見かけによらず優秀だから、八大勇者パーティでもやっていけるだろうに」
「カムロ様もお人が悪い。勇者パーティなんて危険な組織に、どうして近づきたいものですか? もし参加していたら、矢上さんや桃太君のように命を狙われたかもしれない」
以遠の容赦ない正論に、桃太と遥花は力なく肩を落とした。
「それに、私はこの仕事が大好きです。もっとも、今となっては安全とは言えませんが……」
「勇者パーティ〝C・H・O〟の、地上侵攻を許したんだな?」
「はい。こちら、飛行無人機で撮ったカメラの映像です」
桃太は、いや、遥花も紗雨も乂も遥花も、衝撃のあまり目を大きく見開いた。
最初に映し出されたのは動画だ。何もない空に突如として大岩が出現、雨のように降り注ぎ、街を吹き飛ばした。
「あああ」
「ひどい。建物が映画みたいに燃えて、ぐちゃぐちゃサメ」
「酷い真似しやがる。いったい何人死んだんだ?」
「鷹舟様。冒険者を私兵として使うばかりか、民間人を巻き込むなんて……」
次にモニターが映したのは写真だ。
携帯端末で撮影されたのだろう写真には、鎧兜姿の冒険者が町中で暴れ回る非日常の光景が映っている。
暴徒――もはや〝鬼〟と化した冒険者達は、岩による砲撃の支援を受けて警官隊を血祭りにあげた。
そればかりか、銀行やショッピングセンターに押し入り、交番や消防署を破壊し、公園を占拠してギロチン処刑のようなパフォーマンスを見せつけている。
東京の街並みは燃えて、物言わぬ死人が路傍にうずたかく積まれていた。
「〝鬼神具〟のひとつ、空間干渉兵器〝千曳の岩〟を使った物質転送攻撃か」
カムロは牛頭仮面の奥から、苦虫を噛みつぶすような渋い声で呟いた。
あとがき
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