第283話 オウモの試験、満勒の要望
283
「満勒クン。キミだからいい。吾輩は、セグンダにも黒騎士クンにも別の夢があることを知っているから、無理強いはしたくない。なにより、吾輩がみたところ、キミだけが出雲桃太を打倒し、ムラサマちゃんの力を引き出すことで、あのカムロにすら並ぶ可能性がある」
出雲桃太の親友、呉陸喜が扮する黒騎士ら、オウモが率いる〝前進同盟〟の主力メンバーが見守る中、鉛色の髪を刈り上げた巨漢青年、石貫満勒は、新しい冒険者パーティの代表になるよう要請された。
「トータを倒すのは私の役目だから譲れないが……、私も総大将に相応しいのは満勒だと思う」
「師匠は弟子の格好良いところ見てみたいなあ」
「キュートでプリティだけど、トリ頭な詠様でもやれるのが代表ですよ。心配ないない」
黒騎士、セグンダ、道子と、会議スペースにいる全員が、満勒が代表にオウモの言葉に賛同の声をあげる。
(私はトータを親友と思っているし、五馬乂の姉貴分だという二河瑠衣の記憶を継ぐセグンダさんも、教え子である六辻詠を慈しむ炉谷道子さんも、心の何処で遠慮や執着がある。新しい冒険者パーティの代表に一番相応しいのは、やはり石貫満勒だろう)
黒騎士達の内心を汲んだのか、日本人形めいた幼子に化けた〝鬼神具〟ムラサマが、満勒の額にこつんと自らのおでこを当てた。
「満勒は、世界を変える覇者になるのでしょう? あたちも、クマ国に伝説をのこす妖刀という母様を超えたいでち。冒険者パーティの代表になるのは、二人で目的を果たすための足がかりにぴったりでち」
「わ、わかった。ムラサマがそう言ってくれるなら引き受けるよ」
満勒が代表就任を宣言するや、ナマズ髭のついた鼻眼鏡をかけなおしたオウモは、紫色の作務衣のどこに隠していたのか、クラッカーを取り出してパンパンと鳴らした。
「ハッピーバースデー! 新しい冒険者パーティの誕生だ。満勒、総大将をやってもらうんだ。吾輩にできることならなんでも聞いてあげるネ」
「ヒャハハハ。じゃあ、ホバーベースを一台くれ。って言ってもいいのか?」
満勒は悪戯っぽく唇を釣り上げると、丸太のように太い手足に力をこめてぶるぶる震わせながら、とんでもない要求をした。
「いいとも。キミが新パーティ代表となるのなら、明日からこのホバーベースを自由に使ってくれて構わない」
が、意外や意外。彼の上司であるオウモはこの無茶な注文を了承した。
「いいんだ!?」
「びっくりでち。満勒、やったでちよ。明日から車付きの一戸建ての主人でちよ!」
満勒とムラサマは抱き合って歓声をあげ、セグンダと道子は生暖かい視線で見守っている。
(いや、一戸建てではなく、超大型キャンピングカーの間違いだろう。どこかの土地と家屋を手配して貰うよう進言するか?)
黒騎士は、オウモの大盤振る舞いに驚愕しつつも、彼らの勘違いを正すべきか思案したが――。
(待てよ。私が気づくのに、オウモさんやセグンダさんが指摘しないのは不自然だ。ひょっとして、この〝何が欲しい〟という質問自体が、満勒を測るテストなのか?)
黒騎士は、改めて現状を分析する。
新しい冒険者パーティは、オウモが率いるクマ国の反政府団体〝前進同盟〟の肝煎りである以上、『地球の日本国からは認められて』も、『クマ国政府から指名手配される』可能性が高い。
そうなれば、下手に居場所を固定した場合、クマ国代表の武神カムロが派遣する特務部隊の襲撃を受ける可能性があるだろう。
「なるほどカムロさん出張ってくると、私達はその瞬間に逃亡が必須となるのだから、随時移動できるホバーベースは必要不可欠だな」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)