第282話 前進同盟の新パーティ構想
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「実は獅子央孝恵が、皆も知る、出雲桃太君に新パーティを作らせようとしているんだ。
我々〝前進同盟〟も負けてはいられない。新しいパーティを結成し、世直しに邁進しよう。
幸い金ならあるし、冒険者組合にも根回し済みだ。石貫満勒クン。どうだい、新パーティ代表をやってみないかい?」
ナマズ髭のついた鼻眼鏡をかけ、紫色の作務衣を着た、異世界クマ国の反政府団体〝前進同盟〟代表のオウモは、新パーティの結成を宣言。
彼女が代表就任を勧めたのは、推移を見守る黒騎士にとっても、まったく意外な人物だった。
「お、俺様で、いいのかっ。〝前進同盟〟が母体なんだから、新パーティの代表もオウモさんがやるべきだろ」
鉛色の髪を刈り上げた巨漢青年、石貫満勒は、オウモに推薦されて、一瞬、顔をほころばせたものの辞退し、オウモに代表の座を返そうとした。
「おいおい、キミと新パーティにやって欲しいのは、〝前進同盟〟では不可能な地球側への伝手だゾ。忘れては困るが、私はクマ国人だから、冒険者パーティの代表にはなれないんだ。別名の〝寿・狆〟の方は日本国籍もあるが、今後の戦略上、使いたくないのサ」
「そ、そうなのか。だったら……いや弟子がでしゃばるのは駄目だろ。六辻家の当主、勇者パーティ〝SAINTS〟代表の影武者をやっている師匠の方が似合っているんじゃないか?」
が、オウモにあっさりと突き返されたため、満勒は師匠のセグンダを推した。しかし。
「ファファファ。さっきも言ったとおり、私は情報収集のために影武者のアルバイトを引き受けただけで、当主の座に興味はない。だいたい、総大将だと、大好きなビキニアーマーで人前に出たら怒られるんだぞ。そんなツマラナイ役目なんて、やってられるか!」
「しまった師匠は師匠だった」
「たずねる前に気づくでち」
(だろうな)
セグンダにとっては極めて重要で、黒騎士ら、他の者達にとっても納得できる理由で断られた。
満勒は「ならば」と意気込んだものの、長い黒髪が美しい片眼鏡をかけたスレンダーな女性、炉谷道子を見て、自らの欲望を抑えようとばかりに頬をパンとはった。
「ヒャハっ。じゃあ、炉谷さんはどうだ? コケコ娘、ごほんっ。本物の六辻家当主、詠さんの家庭教師をやっていて、パーティ代表の役割にも詳しいんだろう?」
「満勒さん。私はこれから新パーティでお嬢様をいじめ、ごほん、可愛がって、記録する……〝ニュー! ラヴリイ詠様、見守り日記〟の執筆を始めるので、そんな俗事はやりたくありません。そもそも、〝前進同盟〟は六辻家、七罪家と手を切って、まったく新しい冒険者パーティを結成するのでしょう? そうであるならば、代表も無関係の者が相応しいはず」
黒騎士も彼女に任せるのは良いアイデアだと思ったものの、コメントし難い理由で断られてしまう。
「そ、そうかあ。そうなのかあ」
「そうみたいでちね」
満勒やムラサマも正視できないようで、黒騎士と同様に目を泳がせて……、やがて「こいつがいた」とばかりに、黒騎士に注目した。
「そうだ、黒騎士はどうだ? 六辻家にも、七罪家にも関係ないし、亡くなった家族の跡目をついで、冒険者パーティを率いたいって言っていたじゃないか?」
「満勒。私は顔を晒せる日がくれば、必ずや冒険者パーティ〝G・O〟を再興する。だが、それは私自身の手でやるべきことだ。〝前進同盟〟の力を借りる気はない」
「そ、そうなのか」
「満勒、もう心に正直になるでち」
満勒はムラサマと視線を重ね、最後に〝前進同盟〟代表であるオウモと向き合った。
「満勒クン。キミだからいい。吾輩は、セグンダにも黒騎士クンにも別の夢があることを知っているから、無理強いはしたくない。なにより、吾輩がみたところ、キミだけが出雲桃太を打倒し、ムラサマちゃんの力を引き出すことで、あのカムロにすら並ぶ可能性がある」
あとがき
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