第281話 まさかの提案
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(セグンダさんも、満勒も、七罪家と〝K・A・N〟に因縁があるようだ。いったいどんな扱いを受けたというんだ?)
黒騎士は、テーブルにばら撒かれたガラスボードに目を向けたが、中には目を背けたくなるほどの写真ばかりが映っていた。
(あくまで可能性だが、セグンダさんは七罪家当主、七罪業夢が二河瑠衣さんの遺体で実験した結果、蘇生と共に生まれた人格かも知れない。満勒も、過去に人身売買されて〝S・E・I 〟の強制労働施設にいた子供達のような生活を強いられていたのなら、彼の世間知らずはその後遺症なのかも知れない……)
異世界クマ国の過激派団体〝前進同盟〟を統べる女オウモも、気を昂ぶらせた満勒が心配になったのか、ナマズ髭のついた鼻メガネを外し、彼の顔を覗き込んで厚い背中を撫でた。
「吾輩も、日本の八大勇者パーティが問題を抱えていることは承知していた。
しかし、四鳴啓介と〝S・E・I 〟が限界だろうと思いきや――。
六辻剛浚が専横する〝SAINTS〟も、七罪業夢が支配する〝K・A・N〟も、それを超える鬼畜外道の集まりで、正直なところド肝を抜かれたよ。
今なら、三縞凛音が〝C・H・O〟を率いて、反逆した理由もわかる。片腕と見込んだ鷹舟俊忠の独断専行を許し、クーデター後は〝八岐大蛇の首〟、黒山犬斗に乗っ取られたといえ、あそこは比較的まともなパーティだった」
「……」
黒騎士の正体である呉陸喜は、まさにその〝C・H・O〟に研修生として所属していたにもかかわらず、一度は命を奪われ、オウモの手で蘇った経験があるため、納得できなかった。
(三縞代表を善人のように扱うのは、正直、腹に据えかねる。私は、トータほど寛容にはなれない)
テロリスト団体に堕ちた〝C・H・O〟は、クーデターに必要とした〝鬼神具〟、〝千曳の岩〟を動かすために、何も知らぬ研修生の命を捧げた。
実際に主導したのは、凛音ではなく、彼女の部下であった鷹舟俊忠や黒山犬斗だろう。だが、リーダーでありながら悪鬼を身内に抱え込み、その暴走を許したのが罪で無ければなんなのか。
(私はもはや学級委員ではないが、八代勇者パーティは力尽くでも糺さなければならん。なら、オウモさんの方針転換は歓迎すべきだろう。単に順番が変わっただけだ。トータ、もしも立ちはだかるならば、その時は存分に競い合おう)
黒騎士は、親友である出雲桃太と戦う未来を想像し、期待に胸を踊らせた。
「というわけで、六辻久蔵や、両家の非主流派幹部達とも相談したんだが、このまま連中のクーデターに協力しても得るものは少ないと判断した。我々〝前進同盟〟は六辻、七罪の主流派と手を切り、独自の行動をとる。約定により、半年間は日本政府と冒険者組合に助力するが、宣伝期間と考えれば妥当な時間だ。セグンダには、影武者のアルバイトを辞めてもらうことになるけど構わないかい?」
「ファファファ、むしろ大歓迎だとも。私は、この肉体の持ち主であった二河瑠衣とは違う。当主の座は、バイトでも窮屈だった」
「ヒャッハア。ずっと、じゃないならオッケーだぜ!」
「叩く順番が変わっただけなら構わない」
オウモが会議室内部を見回すが、黒騎士を含め、もはや反対する者はいなかった。
「異論はないようだね。
実は獅子央孝恵が、皆も知る、出雲桃太君に新パーティを作らせようとしているんだ。
我々〝前進同盟〟も負けてはいられない。新しいパーティを結成し、世直しに邁進しよう。
幸い金ならあるし、冒険者組合にも根回し済みだ。石貫満勒クン。どうだい、新パーティ代表をやってみないかい?」
あとがき
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