第280話 それぞれの過去と痛み
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「改めて宣言しよう。吾輩達、〝前進同盟〟の目的は、協力してくれる地球の民の国を再興することと、クマ国にとっても怨敵たる八岐大蛇を討伐すること、この二つだ。
『嗚呼、孺子ハ共ニ謀ルニ足ラズ』――とは、古代、ユーラシア大陸の東で覇王と呼ばれた男、項羽の短慮に失望した彼の参謀、范増が言い残した言葉と聞くが――、
吾輩達にとっての六辻家と〝SAINTS〟、七罪家と〝K・A・N〟がまさにそれだ。あまりに無思慮で組むに値しない。これは順番の問題だ。日本政府と冒険者組合を倒すのに変わりはないが、先に偽りだらけの自称〝革命家〟どもをぶっ潰す!」
オウモの発言に、テーブルを囲む全員が頷いた。
黒騎士達は、どん詰まりの現状を変えたいわけであって、望んで悪行を犯したいわけでも、非道に耽りたいわけでもない。
「冒険者組合には、八岐大蛇のエージェントである獅子央賈南が、伊吹賈南を名乗って、いまだに巣食っている。宿敵たるヘビの操り人形となった組織と結ぶなんて、まるで筋の通らない寝返りかと思ったが、オウモの発言にも一理はあるな。私も六辻詠の影武者になって初めて知ったのだが、〝SAINTS〟では、他人が倒したモンスターの素材を奪うばかりか、同胞を闇討ちして遺品すらも奪っているようだ……」
翡翠色のビキニアーマーを着た美女、セグンダは、異界迷宮の中で冒険者の同胞を殺し、死体から装備を剥ぐ写真を手にとって、深いため息を吐いた。
彼女の立場は、主流派閥の領袖、六辻剛浚に据えられたお飾りの影武者だったが、かつて勇者パーティの一角だった二河家と〝S・O〟に縁ある者として、六辻家と〝SAINTSの現状には思うところがあるのだろう。
「幹部の中では唯一の良心だった、炉谷道子さんがパーティから追放されたことで、〝SAINTSは悪事を止めるブレーキが効かなくなったのだろう。冒険者とは名ばかりの悪党どもが幅をきかせているのは、確かに気に食わないな」
セグンダが沈鬱な表情で指摘すると、彼女の弟子である鉛色の髪を刈り上げた巨漢青年、石貫満勒も、頬いっぱいに詰め込んだ西瓜をごくりと飲み込んで、拳を振り上げた。
「ヒャッハァっ。師匠の言うとおりだが、俺様は七罪業夢をぶん殴りたくてしかたねえ。俺様自身も過去に酷い目にあったが、〝K・A・N〟は外国のマフィアと組んで、廃人にするヤバイ薬や、死んだ人間、果ては〝生きている人間〟までも売り買いしているんだぜ。いったいどちらが鬼だっていうんだ!」
「満勒。大丈夫でち、あたちが、最強の魔剣ムラサマがついているでちよ」
「そうとも。頼れるセクシーなお師匠様が、お前と共に外道どもへ報復をくれてやる。オウモさんに救われたといえ、七罪業夢には、この身体を実験材料にされた怨みがあるからな」
黒騎士は、日本人形めいた〝鬼神具〟ムラサマと、女剣鬼セグンダ……。
普段はぞんざいな扱いをする二人が珍しく満勒を慰める光景を見て、機械仕掛けの義手をぐっと握りこんだ。
(セグンダさんも、満勒も、七罪家と〝K・A・N〟に因縁があるようだ。いったいどんな扱いを受けたというんだ?)
あとがき
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