第278話 警察捜査
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(トータ、我が友よ。絶対にこっちへ来てはいけないぞ)
呉陸喜が扮する黒騎士と、遠征に出ていた一行は、オウモの傍若無人な振る舞いに呆れながらも、ホバーベース車内に設置されたシャワーを浴び、着替えて会議室に集まった。
「皆、お疲れのところ集まってくれてありがとう。異界迷宮カクリヨ第八階層〝残火の洞窟〟特産の〝花火西瓜〟と〝埋火トウモロコシ茶〟を用意したので、つまみながら聞いて欲しい」
西暦二〇X二年七月二七日午後。
ナマズ髭のついた鼻眼鏡をかけ、紫色の作務衣を着た、異世界クマ国の反政府団体〝前進同盟〟代表のオウモは、会議室のホワイトボードに複数の写真を貼り付け始めた。
(この場に集まった石貫満勒、ムラサマちゃん、セグンダさん、炉谷道子さん、そして私も……。うさんくさい異世界の過激派団体に入るほどに、今の腐敗した冒険者組合と、弱腰で右往左往する日本政府に強い不信感を持っている。どうやって寝返りを釈明するのか、お手並み拝見といこう)
黒騎士達が見守る中、言動も格好も非常識な代表、オウモは解説を始める。
「まず六辻剛浚が主導する〝SAINTS〟によるクーデター計画だが、五馬乂君に潜入されたことで、計画書が奪われてしまった。作戦自体は修正が効くだろうが、要である七罪家と〝K・A・N〟との秘密同盟がバレて、警察の捜査が入っている。これはいかにもまずい」
意外なことに、オウモが黒チョークで書き殴った内容は、説得力のあるものだった。
「も、もう警察が動いたのか。む、ムラサマ。これじゃあクーデターは成功しないんじゃないか?」
鉛色の髪を刈り上げた巨漢青年、石貫満勒は、座ったパイプ椅子の上で顔を青く染めて、大皿に盛られた花火めいた模様の西瓜の赤い果肉にかぶりつき、まるでリスがクルミを頬張るように口いっぱいに詰めている。
「一番バレてはいけない急所でちからね。作戦の前提だった背後からの奇襲が読まれてしまっては、成功確率も半減でち」
「……」
日本人形めいた姿に変身したムラサマは、灰色の土瓶に入った冷えたトウモロコシ茶をすすりながら、満勒の肩に乗ってペシペシと背中を叩いていた。
黒騎士は、二人の食事マナーには閉口したものの、現状把握には同感で……兜を前に傾けた。
「満勒クンとムラサマちゃんの言うとおりだネ。加えて、〝本物の六辻詠サンを殺す〟……、正しくは〝殺したことにして確保する〟作戦も失敗しちゃったカラ、出雲クン達が保護した詠サンが本物で、六辻家が擁している当主は偽物だとすぐに暴露されるだろう。そうなれば、たとえ公然の秘密であっても、勇者パーティ〝SAINTS〟の結束は揺らぐだろう」
オウモは、これまで六辻家と七罪家の日本国へのクーデターを支援してきたにもかかわらず、まるで他人事のように言い放った。
「すまないね、オウモ。詠ちゃんの確保に失敗したのは、私の力不足だ」
「なあに、セグンダが悪いわけじゃない。最初に交戦した乂クン、凛音ちゃんだけでなく、桃太クンに碩志クン。それに、詠サンもか、五人の〝鬼勇者〟級の特記戦力を相手に互角だったんだ。黒騎士君もたいしたものだと思うだろう?」
「同感だ」
騎士は、セグンダを庇うと同時に――。
もしも自分が最初から戦場に参加できたなら、親友の桃太とどう戦っただろうかと埒もないことを考えて、胸がワクワクと高鳴っていることに勘づいた。
(そうか。私は、トータと共に戦うのも、敵として刃を交えるのも、どちらも楽しんでいるのか)
あとがき
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