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第277話 熱い掌返し

277


「私は一〇年続けていた、〝ラヴリイ詠様すくすく日記〟の執筆を止めたんですよ。だというのに、すまないの一言で終わらせないでください!」

「……え?」


 桃太の親友、くれ陸喜りくきこと黒騎士は、一瞬、兜の聴覚機能がイカれたかと誤認した。


「今、人々はどうしようもなく荒んだ末世に疲れています。だからこそ、ワンちゃんやネコちゃん、あるいはぬいぐるみの可愛さに惹かれるんです。そしてうた様は、この世でもっともラブリィ。黒騎士さんも、わかってくれますね!」

「はいっ」


 黒騎士は、長い黒髪が美しいライダースーツを着た女性、炉谷ろたに道子みちこに早口で凄まれて、思わず首を縦に振っていた。

 どうやら、彼女が主君たる六辻ろくつじうたに向ける感情は、忠義だけにとどまらない、複雑怪奇ふくざつかいきなものだったらしい。


「勢いで誤魔化ごまかしているけどよ、それってストーカー、うわらばっ」

「コラーっ、満勒みろく。なにをするでち!?」


 鉛色の髪を刈り上げた巨漢青年、石貫いしぬき満勒みろくも、道子の隠されていた本性にびっくりしたのだろう。

 日本人形めいた少女ムラサマを抱いてバイクを降りようとしたところ、石と泥に足をとられ、ムラサマもろともすっ転ぶ羽目になった。


「バカ弟子は平常運転のようだが、〝前進同盟ぜんしんどうめい〟の熱い掌返てのひらがえしはいただけないな。私もお姉さんキャラの端くれとして、道子さんの性癖には……まだ納得するが、オウモ、お前はダメだ。その面の皮は超合金か?」

 

 黒騎士ら一行の中で、一番年長のセグンダ。

 翡翠色エメラルドグリーンの金属紐とV字の腰ガードという水着鎧ビキニアーマーという突飛な装束を着た女剣鬼までが、オウモのはちゃめちゃな発言に心底呆れていた。

 

「クーデターまであと一ヶ月もないんだぞ。これまで加担していた六辻ろくつじ家と〝SAINTS(セインツ)〟、七罪ななつみ家と〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟の同盟を裏切って、敵対していたはずの日本政府と冒険者組合につくなんて狂気にもほどがあるだろう」

「超合金並の美しさだなんて、そう褒めるなヨ。〝正気にては大業ならず。気違ひになりて死に狂ひするまでなり〟という言葉は、瑠衣るいから学んだんだゾ」


 黒騎士は、「嘘だ!」と思わずツッコミを入れかけた。

 たしか、『葉隠はがくれ』という、五馬いつま家の体術の元ネタになった書物の一文だが、オウモのやることなすことおかしいのは、ずっと以前からだ。

 でなければ、陸喜のような死人を蘇らせようとは思うまい。


「そういえば、先に式神で連絡を貰ったが、瑠衣るいのことは、これからセグンダと呼んだ方がいいのかな?」

「オウモ、そのように頼むよ。私の肉体は二河にかわ瑠衣るいのものだし、そう生きた記憶もあるが、どうにも自分が彼女だと自覚できなくてね。二番セグンダと呼ばれる方がしっくりくる」

「わかった、そうしよう」


 オウモはセグンダと軽い抱擁ほうようを交わした後、無言で立ち尽くす陸喜に向かって片目をつむり、ウィンクした。


「黒騎士クン。ホバーベースにはいってくれ。詳しい事情は移動しながら話すよ」

「――!」


 黒騎士は頷くも、無言で両手を広げ天を仰いだ。


(トータ、我が友よ。絶対にこっちへ来てはいけないぞ)


 かくして黒騎士ら遠征えんせいに出ていた一行は、オウモの傍若無人ぼうじゃくぶじんな振る舞いに呆れながらも、ホバーベース車内に設置されたシャワーを浴び、着替えて会議室に集まった。

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「その面の皮は超合金か?」 厚いのではなく固いのですね笑 しかしオウモは軍師系かと思っていましたが、狂気系でしたか。 まさかとは思いますが、技術流出も何も考えてませんでした、とか言い出さない…
[一言] >(トータ、我が友よ。絶対にこっちへ来てはいけないぞ) 桃太「む、リッキーが助けを求めてる気がする」
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