第275話 黒騎士、ホバーベースに帰還する
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西暦二〇X二年七月一三日未明。
出雲桃太の新パーティ結成宣言を呼び水に、日本国の冒険者組合代表、獅子央孝恵と、クマ国の過激派団体〝前進同盟〟を率いる統率者、オウモの間で半年間の停戦が成立した。
が、そんな方針転換を知る由もない、桃太の親友、呉陸喜が扮する、黒い全身鎧を着込んだ〝黒騎士〟達が何をしていたかというと……。
「セグンダさん、満勒、ムラサマちゃん。オウモ代表から、異界迷宮カクリヨの第八階層、〝残火の洞窟〟で急ぎ合流するよう指示が出ている。炉谷道子さんは、私の後部シートに乗ってください」
「ええ、黒騎士君。わかったわ。セグンダさんと満勒君は同じバイクに乗った方がいいものね」
ひとまずオウモの元へ帰るべく、二台並んだ蒸気バイクのエンジンに火を入れていた。
黒騎士は、片眼鏡をかけたスレンダーな長身美女、炉谷道子へ手を伸ばし、後部シートへ乗るよう勧めた。
「ファファファ。黒騎士君、改めて昨日は助けに来てくれてありがとうよ」
「セグンダさんが御無事で良かった。身体を冷やしてはいけない。私の予備ですが、このマントを使ってください」
「おおっ、気がきくねえ」
「……」
次に黒騎士は、水着鎧を着た女剣鬼セグンダの、翡翠色の金属紐がしめつける豊かな胸と、V字の腰ガードが守るキュッとしたお尻、という色気ムンムンの格好が目に毒だったため、隠してもらうことにした。
「ヒャッハァ、助かったぜ、黒騎士。出雲桃太は、アンタと互角っていうから、勝てると思ったんだがなあ」
「思い上がるのもたいがいにするでち。そもそも黒騎士の方が満勒より強いし、助けて貰ったんだからちゃんと頭を下げるでち。使ってしまったあたちのへそくりの為にも、強くならないと承知しないでち」
ついで、筋肉ムキムキの巨漢青年、石貫満勒と、日本人形めいた少女の格好に変わったムラサマがこぼした感想に、さすがは親友とその仲間達だと誇らしくなり、我知らず胸を張る。
「「よし、出発だ」」
結局、一台の蒸気バイクには黒騎士と道子が、もう一台には翡翠色の水着鎧の上にマントを羽織ったセグンダと、筋肉モリモリマッチョマンな満勒、脇差サイズに縮んだ妖刀ムラサマの師弟が乗り――。
黒騎士一行は異界迷宮カクリヨの第六階層〝シャクヤクの諸島〟を脱出。幾度か運転手を交代しながら複数の〝転移門〟をくぐり、二週間をかけて第八階層〝残火の洞窟〟へと辿り着いた。
そして、西暦二〇X二年七月二七日。
「お帰りなさい。皆にもう一度会えて、吾輩もホッとしたよ。積もる話はあとにしよう。すぐにホバーベースへ乗ってくれ」
黒騎士は、〝前進同盟〟代表であるオウモが、ナマズ髭のついた鼻眼鏡をかけて、紫色の作務衣を羽織った格好でホバーベースからとび降りるのを見て、妙に慌ただしい出迎えだなと首を傾げたが――。
続く彼女の言葉は、まったく想像しなかったトンデモナイものだった。
「今から六辻家と〝SAINTS〟が築いた拠点、〝三連蛇城〟に向かう。キャンプを張って、クーデター発生と同時に城のひとつを落とすぞ。吾輩達〝前進同盟〟は、冒険者組合に寝返ることにした!」
「「はあ!?」」
あとがき
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また第四部の前半部分は、呉陸喜こと黒騎士視点で進みます。桃太側では見えない、前進同盟サイドをお楽しみください。